カテゴリー「24 セクシー亜衣/美美/格闘ファミリー」の記事

はじめに

 このカテゴリでは、少年マンガでありながら女性が主役で、かつ現代の学校を舞台としているものを紹介したいと思う。
 『ななこSOS』(そして青年マンガであるが『スクラップ学園』)は単独カテゴリで既述ゆえ、それ以外の作品となると単行本ならば『セクシー亜衣』『美美』『格闘ファミリー』がこれに該当するだろうか。
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 今日はまず『セクシー亜衣』(1974年)についてちょっと。
 このシリーズのヒロイン・関井亜衣(せきい あい)の職業は教諭だ。「女教師もの」といったジャンルは少年マンガ雑誌で(少なくとも当時は)"売れ線"のひとつだったろうと思われ、さほど珍しくないかも知れない。
 だのに、吾妻マンガの長期連載作品で教師をしているヒロインというのは、おそらく関井亜衣ただ1人きりのようなので、考えてみるとこれは、逆に珍しい気がする(注:ヒロインが教師(?)という例が他に無いわけではない。しかし『霧の中の少女』は読みきりだし、登場する早川ルナは"主人公"ではないように思える。また『やけくそ天使』の阿素湖素子は教師が本職ではない筈なのでここでは除外している。原作が存在する『好き!すき!!魔女先生』もしかり)。売れ線なり定石なりといったものを避け、独創的で斬新なものを模索する吾妻マンガの特長はここにも見て取れると言えようか。
 また、吾妻マンガの"連載"作品で主人公が女性というのは(2回続いた『荒野の純喫茶』を別にすれば)たぶん関井亜衣がその最初になる。この点でも彼女は珍しい立場にいるようだ。
 再び「女教師」のところへ話を戻そう。
 ヒロインが教師とくれば、その相手役は男子生徒(たち)というのがけだし相場であろうと思う。男女のそうした組み合わせこそは、学校というやや特殊な空間においてのみ発生しうる(よってそこに貴重さがある)ものだし、そうでなかったらヒロインが教師であることの意味と価値が薄れてしまいそうだから。
 『セクシー亜衣』でも第1話はまさにこのパターンで幕開けしている。が、この「定石」は、それきりで終わった。第2話以降の展開で男子学生たちはヒロインの「相手役」までは果たしておらず、描かれているのはむしろ、主人公の徹底的なコメディエンヌ(喜劇女優)ぶりなのだ。
 シリーズのこうした基調には長短あったろうと考えられる。ギャグが増えればたぶん(ムードのある)お色気は減ってゆき、ヒロインの活躍が多くなれば相手役(特に男子生徒たち)の出番は少なくなってゆかざるを得ないだろう。単なる個人的な感想を滑り込ませてしまい恐縮だけれども、連載当時に学生服を着て学校に通っていた僕は読者としてこうした点に少なからず失望し、甘ったれた夢を見させてもらえない不満が、何かヒロインにフラれたような寂しさへと発展していった記憶がある。
 しかし、そういった感傷的で艶(なまめ)かしい白昼夢がこのシリーズで読者に対し叶えられていないのはむろん、わざと定石をハズしている故だろう。まだ現実の性について何の経験も持っていない男子学生が、成熟した女性美を持つ女教師に心を奪われてしまう物語は、作者によってちゃんと僕らに与えられている(例えば『ふたりと5人』で『個人授業!の巻』『その人の名は先生!の巻』など)。『セクシー亜衣』があえてこうした路線で構成されなかった理由は知る由も無いが、引用リンクした上記の2作品をみてみるとどうも、女教師が主役というより男子生徒を主人公としその視点で展開する場合にむしろ適する題材のように感ぜられる。ヒロインがあくまでもヒロインであるためには、こうした内容は非情に切り捨ててゆく必要があったのかも知れない。
 『セクシー亜衣』はそれによって、ありきたりではない異色の"女教師もの"になっているのだと思う。

亜衣先生、目ざめる

00_3(別冊少年チャンピオン 1974年4月号)

「え・えー 今度新しくみなさんを教えることになりました……関井亜衣です よろしく」
 と教壇から挨拶するや、生徒たちは
「ブスー」
の大合唱。まあたしかに亜衣先生の風貌は、まるで味気ない髪形に度の強そうなメガネ、そして何となく野暮ったい服装なので、男子学生どもに「受け」そうなタイプではないのだった。あまりにもひどい生徒たちの態度に、とうとう亜衣先生の忍耐も限界がくる。そこへ待ってましたとばかり逆襲の総攻撃を受け、教室からたたき出されてしまった。
 洗面台の前で独り、声を上げて泣く亜衣。
「いや こんなことで くじけちゃダメだわ あんな生徒こそ わたしの愛で導かなければ……」
と健気(けなげ)に決意し、「お化粧でもして気分変えよ」と考えて、洗顔を始める。しかし、先頭に立って嫌がらせをしていた男子生徒が、
「さて 最後にハダカにして 学校からおん出してやろうかな」
とひとりごちつつ、そこへ近づいて来ていた。何も気付いていない亜衣は一体どうなる!?

*「亜衣ちゃんのために 運命を狂わされた男たち その数は知れず……」
というナレーションで幕が開くこの物語は、定番どおり(?)男子学生が最初の相手役として登場する。全く異性経験も無いまま成人したヒロインが、男子学生とのかかわりで自分を知り、少しずつ「女」になってゆく過程は読んでいてわくわくする。
 冒頭に出てくる全身像はおよそ6.5頭身でだいぶ背が高く見え、亜衣は「色っぽい」というより「かっこいい」体型の女性と言えるのではあるまいか。トビラのようにクローズアップになった時には頭部にベタ(墨)が用いられず、髪の流れをより細かく線で描くといった方法は、少年マンガよりむしろ当時の少女マンガで用いられた表現と思われ、細密に描き込まれたまつ毛やブラの装飾など、大きいコマでのヒロインの肖像には手法上の実験がみられるようだ。
 黒板に書かれたものを見るに、亜衣の担当教科は理数系のそれであるらしいが、特に明言は無い。
 また、生徒は男子ばかりが今回登場しているものの、男子校(今では少なくなったらしいけれど、この当時は私立に多く存在した)というわけではなく、亜衣はどうも小・中学を併設する男女共学の私立校で教鞭をとっているらしい事が、後になって分かってくる。
000_1(画像は、大都社 St comics『美美&亜衣』1994年3月3日初版 に収録された、描き下ろし版の亜衣。)

亜衣先生、初恋す!

01_7(別冊少年チャンピオン 1974年5月号)

 銭湯へ行った亜衣は番台の老人にまでブス扱いされて頭に来る。しかし、
「そういやあたしって男の人に見つめられたことなんかないもんねー」
と、しょんぼり。が、髪をほどきメガネを取ると別人のような美女になってしまうのだった。ややこしい事に亜衣は乱視で、自分の顔がどんなだかよく見えない。おまけに周囲もよく見えないため、間違って男湯へ行き、一糸まとわぬ姿を見せまくってしまい大騒ぎとなる。
 翌日、すっかり放心していたら職員室で、自分の事が話題になっているのを聞いてびっくり。同僚の男性教諭がそこに居合わせたのだ! ショックのあまり、
「もう死ぬ」
と窓から身投げしようとしたら、
「しかしすごい美人だったなー 天使のように ああもう一度あの人と会いたい」
と彼が溜息をつくのを聞いて……。

*台詞からすると亜衣は今回初めて銭湯に出かけたのかも知れない。あれやこれやで初めてのデートも今回経験する。そこではまた騒動があって男性教諭からシマパンを借り、それをキュロットスカートのようにはく場面があるのだが、デート相手の「アズマ先生」は亜衣のその姿にひどく興奮し暴れている。若い女性のショートパンツ姿(?)に反応するこの趣味嗜好は『ふたりと5人』のおさむにも見られる?
 ポルノ虫が1コマ登場。

家庭訪問

02_8(別冊少年チャンピオン 1974年6月号)

 きょうは教え子たちの家庭訪問。最初は「ヨタリ グレ夫」くんの家へ行くのだったが、ひどく治安の悪そうな区域に住んでいる。
「あんまり環境が良くないわねー」
と怯(おび)えていたら、あっという間に持ち物も衣服も全てかっぱらわれてしまった。とうとう全裸で生徒の家に到着。教え子はとても親切だったのだが、その家族は……。

*自分が実は美女であったと開眼し、亜衣は今回から「美女」のほうの素顔で通している。しかしこれが次回からは再び、平素は「ブス」の顔でいることにしたようだ。今回の騒動を経験し、よほど懲りたのだろう。
 のちに有名キャラクターの1人となる「ナハハ」(の、人間版)は、この作品でデビューしたらしい?

クラブ顧問で猛ハッスル!

03_9(別冊少年チャンピオン 1974年7月号)

 校長先生に呼ばれた、亜衣。
「学校になれてきたことだし どれかクラブの顧問をやってもらおうと思ってね」
というのが用件だった。亜衣は、
「水泳部なんてどーかしら」
と水着に着替えてのり込む。そこにはオリンピック目指して生徒たちを厳しく指導する、大田コーチがいた。女にモテる彼であったが、なぜか「ブス顔」のほうの亜衣に心引かれたらしい。しかしそれが原因となり、亜衣は水泳部で嫉妬されひどい目にあう。くじけずにレスリング部へ行ってみるのだったが……。

*「鉄の爪」というのはプロレスラーであるフリッツ・フォン・エリック(Fritz Von Erich)の用いた必殺技の名称。
 自分の美しさを知った亜衣は少し性格が変わってきたようで、美を武器に生徒たちを懲らしめるという報復行動を取るようになってきている。
 トビラの肖像は巻毛を細い線で丁寧に描いてある一方、胸の谷間をおがませるという構図で、少女マンガの繊細さと、少年マンガのちょっとしたエッチの合成が試みられているように感ぜられる。

亜衣ちゃん大漂流

04_10(別冊少年チャンピオン 1974年8月号)

 「桃色小学校一同様 そーなん海水浴場」という立札がある。みんなして海へ来ているのだ。若い女性教諭たちの水着姿に生徒たちから歓声が上がり、いっしょに泳ごうと誘ってはまとわりつく。そこへ亜衣も水着姿で登場、しかし「ブス顔」でカッコ悪い水着なので誰も寄り付かない。と、イカダに乗っている生徒たちからお呼びがかかった。喜んで行ってみたら、亜衣は帆柱の役割をさせられるだけ。あまりの虐待に亜衣は帰りたくなってきたが、海は突然しけてきて、嵐となってしまった。身体に帆布を付けていた亜衣は、強風でイカダから吹き飛ばされ……。

*この回は最初の単行本(朝日ソノラマ サンコミックス 1978年3月20日初版)にあり、大都社のSt comics(1994年3月3日初版)では収録されていないようだ。理由は不明。
 第1回からずっと男子生徒たちは学生服を着ており、後の回では「中学校」と明言しているところがある。この回だけ「小学校」になっているのだが、亜衣の勤務先は小・中学校のある私立なのだろうか?
 「そーなん海水浴場」は、湘南(しょうなん=神奈川県に実在する地域の名称)のもじりと思われる。
 三蔵がゲストで出演するがヒゲを生やした中年で、まだ『きまぐれ悟空』の頃に近い容姿。

避暑地でのできごと

05_10(別冊少年チャンピオン 1974年9月号)

「さあー 学校は夏休みだし 今年は避暑地でボーイハントよ」
とはりきる亜衣。しかし「ブス顔」で出かけてみると行楽列車はえらい混雑、とても座れそうにない。美人だとみんなから親切にされているが、亜衣はさんざんに扱われる。怒った彼女はトイレで変身し、乗客をからかって復讐するのだったが。

*薄手のブラウスを通して、ぴんと立った乳首が透けて見えるというトビラはかなり大人向けな肖像になっている!?
 当時流行していたオカルト(コックリさん)やその筋の映画題名(『悪魔のはらわた』(FLESH FOR FRANKENSTEIN)、『ヘルハウス』(THE LEGEND OF HELL HOUSE))、はては社会問題(「金権選挙」)まで出てくるあたりは、ギャグも少し大人向けと言うべきか。
 列車の窓に1コマ、哲学的先輩とおさむ(らしい)人物が出演。ポルノ虫のほかツチノコ(?)、さらに「ナハハ」も登場。
 「だめよダメダメ」という台詞は山本リンダ『奇跡の歌』パロディか。

美人コンテストがお好き

06_10(別冊少年チャンピオン 1974年10月号)

「モモ色中学の美女はだれか ミス・モモ色中コンテスト 一位はハワイへ!!」
と書かれた、でっかいポスターが掲示されるのを見つけた亜衣。聞いてみたら先生であっても、ミスで美人なら出場資格があるという。亜衣は、
「クラスを代表しコンテストに参加することにした みなさんも応援するように!」
と教壇から発表するが、生徒たちによって袋叩きにされてしまう。
「こうなったら意地でも一位になるもんね」
と亜衣は決心し……。

*亜衣の教えている場所が「モモ色中学」であるらしい事が今回わかる。「日本がチンボツします」という台詞は小松左京のSF小説『日本沈没』が1973年に発表されベストセラーとなったゆえだろう。
 この回で初めて『セクシー亜衣』という呼び名が亜衣自身によってポスターに用いられている。女生徒たちに対抗し、大人の魅力で戦うぞという決意表明だったのだろうか。秘密の部分を隠したポーズがいかにも1970年代の裸婦像らしい。
 「千二百票」という数値があるが、この頃の中学の1クラスはたぶん40名ほど、それが3学年だから、舞台となっているモモ色中学は1学年につき10クラスほどが存在する、大きな学校であるらしい(40×3×10=1,200)。

お見合い狂騒曲!

07_10(別冊少年チャンピオン 1974年11月号)

 亜衣はお見合いをする。大いに乗り気なのだったが、実は相手側の男性には既にフィアンセもあり、最初から全く見込みは無い。「義理があってことわりきれなくて」こういうことになったらしいのだが、そんな事情とは知らぬ亜衣は必死。だが結局は茶番に終り、
「やっぱ あたしって男に縁がないのねー」
と、メガネを外し涙をふこうとする。その亜衣の素顔の美しさを見て相手の男は大ショック、一撃で恋におちてしまい……。

*「七時半からハイジ見なきゃならん」という台詞は、この頃TVアニメで『アルプスの少女ハイジ』が放送され大ヒットしていたからだろう。「汽車よりも早く!」というのはアメリカ製TV番組『スーパーマン』(Superman 日本では1956年から放送)あるいはTVアニメ『8マン』(1963~1964年)のオープニングのパロディか。

亜衣ちゃん!最後の大変身!

08_12(別冊少年チャンピオン 1974年12月号)

 今日はめずらしくデートをする、亜衣。相手の男性とはきのう知り合ったばかりだけれど、その出会いがスゴイ。道に落ちていた十円玉を拾おうとして争ったあげく、結局ヤキイモを買い二人で分けた、という馴れ初めなのだ。この、世にも情けない出会いをした二人は、世にも情けないケチンボなデートをし、これはもうケンカ別れかと思われた。が、メガネを壊してしまい素顔で泣く亜衣を見、男はコンタクトレンズを買ってくれて……。

*コンタクトレンズをつけた亜衣は、ついにメガネ無しの自分の顔を初めてはっきり見る事ができるようになる。これで大喜びした亜衣はどんどん暴走してゆくのだが、大騒ぎの後はちゃんとハッピーエンドなのが楽しい。亜衣先生、どうぞお幸せに。
 使い捨てコンタクトレンズなどはこの頃まだ存在せず、劇中にあるようにたいそう高価なものだったようだ。
 台詞で芸能人の名前が出てくる部分は単行本により書き換えがなされているが、大都社 St comics版には欄外に手書き文字で「マギー・ミネンコ」うんぬんとある。マギー・ミネンコ(MAGGIE MINENKO)はTVのバラエティ番組『金曜10時!うわさのチャンネル!!』(1973~1979年)に出演していた歌手。
 亜衣が教えているのは数学(というより算数!?)かと思えるくだりがあるが、これはみんなをからかっているのかもしれず、はっきりしない。
 なにはともあれ、吾妻オリジナルの(そして殆ど唯一の)「女教師もの」マンガ『セクシー亜衣』は、これにて一件落着したのであった。

霧の中の少女

09_10(少年チャンピオン 1972年9月1日 夏休み増刊号)

 夏だというのにその日は……みょうに霧が深かった……!!
 教室内には男子生徒が4名いて遊んでおり、他の生徒たちはサボっている様子。そこへいつのまにか、まるで霧にまぎれて入って来たかのように1人の若い女が現れる。
「新任の早川ルナです」
と自己紹介する彼女はどうやら先生のようだ。なかなか厳しい人らしいので4名はおとなしく授業を聞くが、「瞬間移動学の第3課」なるところから話が始まる。何だかさっぱり分からずにいると早川先生は腹を立て、
「よくみてるのよ!」
と叫ぶや、突然みんなの目の前から消え、そして別の位置へこれまた突然現れる。彼女は黒板に方程式を書き、
「わかるね!? やって」
と男子学生に命じ……。

*「霧ふかい夜に ふと であった ゆきずりの少女ーー
  愛は流れ星のように 美しく はかないものと 知った わたし」
と、トビラにはある。けれど内容には関係が無い!?
 ヒロインの体型が蜂の様にくびれたウエストをしていたり、絵が純粋にマンガらしい頃の作品。ちょっぴりホラーな雰囲気は、のちの『狂乱星雲記』『るなてっく』シリーズに通じるものが感ぜられるように思うのだけれど、どうだろう。
 雑談ですけれど、僕はこのマンガを読んだ後に同名の小説(石坂洋二郎の作品)が存在するのを古本屋で発見し、びっくりして買い求め読んでみた思い出があります(吾妻マンガの世界に入口が通じていそうなものはとにかく何でも読みたかった)。けれど内容にこれといった関係は無いようで、がっくりしたのでした。

スーパー・ラム

10_10(別冊少年チャンピオン 1971年7月号)

「やあラムくん」
サングラスをかけた蛇が、読書中の猫(たぶん)に挨拶。読んでいた本は『働かないで食う方法 吾妻すれお著』というもので、「どんな食べ物でもじゅ文によって出せる」のだとか。そりゃ実験の価値があると考え、さっそくやってみると……。

*16ページの作品だが、3話から成るオムニバスという構成。トビラには「マジックギャグ!」と文言があって、その通りに「魔法」をテーマとしたお話。これはSFを得意とする作者にしては意外な気もするが、同じキャラクターに同じ舞台で3本のショート・ショートを描いてみせる作者のアイディアの豊かさと力量は、既にこの頃から明らかになっていたようだ。
 ここで「ラム」という名前になっているキャラクター"ネコイヌ"については、かつて作者自身が生い立ちについてコメントを書いていた事があるようだ
 『ラ,バンバ』の主人公らしき人物がちょっと出演している。

きまぐれガイドの天国旅行

11_10(少年チャンピオン 1973年1月5日 お正月増刊号

「あなたを夢の世界へ! イージートリップ異次元旅行社」
という看板(半壊しているが)を掲げたビルがある。やってきた1人の男性客は、
「異次元をぬけてどんな世界へでも旅行させてくれる旅行社はたしかここだろ?」
と確認するが、どうやら本当であるらしい。
「ボクの行きたいってのは…女 女 また女! そして女! という感じの……」
という無理難題を彼は言い出すのだったが。

『逃亡日記』でアシスタントA(吾妻夫人)が、「思い入れがあ」る作品として挙げ、「知ってる人いるかナァー」と語っている(p.52)。ブラックユーモアな部分のあるSFだが、甘く楽しい夢の中に、ひとつまみの「苦味」を加えてあるのは吾妻マンガの特徴のひとつなのかも知れない。もしかするとガイドの美女は、岡崎友紀(TVドラマ『なんたって18歳!』(1971年)でバスガイドを主演した)あたりがモデルか。
(以下、雑談です)
 無気力プロが発行していたコピー新聞『ALICE』では「吾妻ひでお作品 不完全リスト」というのが掲載されたことがあります。それを示して沖さんが僕に、
「あと、何かあったかねえ?」
と校閲(?)を求められ、僕はリストに目を通して、
「『天国旅行』とかが抜けてますか……」
と答えた記憶があります。このリストは"吾妻マンガの年代順リスト"としてはおそらく最初期に作成されたものだったのではと思われますが、「完全なリストを作ってくれた人は……ごくろうさん!」とかと書き添えてあって、後日、ファンの手により更新されてゆく事になったようです(?)。

(朝日ソノラマ サンコミックス版単行本『セクシー亜衣』は、ここで終わっている。)

はじめに

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「マンガ少年で『美美』連載開始 わりと力入れて描いた ちょっと評価もされた」と『失踪日記』にある(p.140)この作品は、"偉大なスケ番の伝説"であるかと思う。
 第1話で偶然により「スケ番」となった主人公が、最終話で全ての者(の心)を支配する事に成功しているからだ。
 ただし、この物語のヒロイン・美美(みみ)がそうした天下統一を成し遂げたのは、力や計略によるのではない。そもそもにおいて彼女は支配者として君臨する事など全く望んでいなかったろうと思える。事情は逆だ。世界の方が自ら望んで、美美に頭(こうべ)をたれる事に幸福を見出し、それを選んだのである。
 美美が"偉大な"のはその点だ。
 オレを尊敬しろ、とわめきちらし暴力的に要求する者たちが、「こわもて」するのには成功したとしても、結局は軽蔑しか得られないのがこの世の法則だろう。自分で自分の人生をぶち壊し、望んでいるのと正反対の報いを受けるこうした悲劇は、不良少年たちの生活で特に顕著なのではあるまいか。
 ヒロインの美美は、まさにそうした世界で「普通」の逆を、何の気負いも無く行なっている。こうした対比を描く基本設定は大変面白い。
 美美はいわゆる「大和撫子」で、日本マンガならではの美少女キャラクターと言えそうだ。容姿端麗、成績優秀、品行方正、清廉潔白、沈着冷静、温和で上品、利他的で親切、日本舞踊に華道に茶道、おまけに武芸の達人。美美はまさに完璧で、何の欠点も穢(けが)れも見出せない。これはもはや「日本的な美」を結晶して生まれた少女、といった域を超えているように感ぜられる。むしろ読者がそこに見るのは、慈悲深い、しかし気高く毅然とした、"女神"の姿に近いのではないか?
 こうした娘が現実の人間社会に存在しうるとはおよそ思えない。
 けれど、男たちがどんなに馬鹿で幼稚だとしても、それはちゃんと分かっている。分かっているのだ、「トイレに行かない女」なんて存在せず、全ては夢なのだと。それでも、美しいならば夢をやはり見たいのである。それこそが、マンガならでは起こせる奇跡のひとつなのではないだろうか。
001mimi_ai 『ふたりと5人』の連載終了直後(1976年9月)に、この『美美』は始まっている。比較してみると『美美』に、エロティックな場面は皆無に近い。けれどそれに不満を懐く男性読者も皆無に近かったのではと思える。
 「心が洗われるようだ」という表現で、人はすがすがしさを語る。男性読者たちが作品を通じ美美と接して感じる幸福は、そういった精神の高揚であって、感傷のなかに微弱だけれど性欲が混入している憧れとはまた違う、崇敬の念のようなものだったのかもしれない。そうであればこそ美美が神聖不可侵であることに、むしろ安堵の胸をなで、満足したのかも知れない。
 男はしばしば、女というものが理不尽だと言って嘆く。しかし男もけっこう複雑なようだ。憧れの異性を手に入れたいと欲する一方で、むしろ遠くから見つめ崇(あが)めていたいと願ったりする。そしてそんな矛盾を、平気で自分の中に共存させているのだから。
 何に美を見出し、何を欲するかによって、人の内奥の真実が明らかになる場合がある。
 波一つ無く澄んだ水面(みなも)が、それを覗き込む者の姿を映すように、美美には読者の内面を明らかにする力があるのではないか? だとしたら、読者が美美を通じてそこに見出すものはなんだろう?
 もしかすると作者はヒロインを描くという方法で、実は、読者の心にあるものを描出して見せているのではないだろうか?
 強い自己主張など殆ど何もしないのに周囲が動かされてしまう美美の物語を読んでいると、何だかそんな気持ちになる。
(画像は、最初の単行本である朝日ソノラマ サンコミックスのカバーと、後に大都社 St comicsで出版された時のカバー。)

No.1 スケ番美美

A01(マンガ少年 1976年9月号)

 転校生の欅美美(けやき みみ)は、美少女だがちょっと変わり者らしい。教室で挨拶を終えるとザルそばを全員に配って先生を驚かせる。その上品な美しさに男子生徒たちは皆一撃でまいってしまい、ちやほやされる美美。しかし不良の女生徒たちからは嫉妬されて……。

*毎回たった4ページで全36話。自分でも何か描けるかも……と思った人は試してみましょう、4ページで話をまとめられるか、36話すべて違うエピソードを思いつくかどうか、そして各ページに最低1つギャグを入れられるかどうかを……。

No.2 日舞はいかが

A02(マンガ少年 1976年10月号)

 下校の途中だろうか、1人で道を歩いている美美。そこへ、
「よー 彼女 踊りにいかねーか」
と若い男が声をかける。
「あら ちょうどあたしも行こうと思ってたところですの」
と笑顔で答える美美。しかし彼女は日本舞踊の稽古のことを言っていたのである。まるで世間ズレしていない美美の様子に、男はほくそ笑むのだが。

*今回、登場人物の台詞から、美美が高校生であるらしい事が分かる。
000mimi_1 美美は前回の初登場ではブラウスに紐タイという制服だったが、今回はセーラーの夏服を着ている。大都社・St comics版の描き下ろしイラストでは
「制服いっぱいもってます」
と美美が笑顔で語っているのだが、実際、美美はいろいろな制服で登場しており、これはこのシリーズの謎の1つと言えようか。とはいえこのいささか奇妙な着こなしは、美美を「どこの学校にもいる女の子」といった錯覚を読者に起こさせる効果があったかも? 「今回の制服はうちの学校のと似てる」と読者が感じる回が(セーラー型であれブレザー型であれ数回は)あったろうと考えられるから。なお、この当時の学校では「制服」はあっても、「標準服」(かならずしもそれを着ていなくても校則違反にはならない)というシステムはまだ存在しなかったろうと思われる。

No.3 お相手しましょう

A03(マンガ少年 1976年11月号)

 「ぐれ子」たちはタカリをやろうとして、あっさり倒されてしまった。そこへ美美が通りかかる。
「きさまがこいつらのスケ番とやらか」
と男、神明大空手部主将の強力男(ごうりきだん)は美美につかみかかる。美美は、
「どうかゆるしてあげてください もうこんなことさせませんから」
と頼むのだが、いささか男尊女卑な価値観の持ち主であるらしい彼は納得しない。結局、美美は彼と戦わねばならなくなって……。

*「流流(ながれりゅう)無段 欅(けやき)美美」と自ら名乗る台詞があり、これが美美の武術の流派名称であるらしい。美美たちは制服で登場しているがネッカチーフを着用しており、第1話・第2話ともまた異なるデザインとなっている。美美は再び第1回のようにヘアバンドをしているが、この後しばらく、使わなくなるようだ。

No.4 隙あり!

A04(マンガ少年 1976年12月号)

「今日は授業参観日でございます 学校へいらしていただけますか?」
と美美は父親に問う。突然、父は日本刀を振り下ろし、美美は真剣白刃取りでそれを受ける。とにかく一緒に出かけるのだったが、父はいきなり攻撃してきて、美美がそれを受ける修行は時も所も構わず続き……。

*美美の父親が登場。彼が使う武器は日本刀だけではなく、ひょっとすると忍術もこなすのかも知れない? なお母親の姿は見えず、欅(けやき)家は父子家庭なのだろうかと思われるも定かではない。
 今回の美美の制服は紐タイを着用する型で、これは第1回のブラウスが長袖になり、その上からベストを着ているようなデザイン。

No.5 出入りは茶道で

A05(マンガ少年 1977年1月号)

 和服姿で美美はお茶をたて、父がそれを飲んでいる。と、そこへ美美の子分たちが駆け込んできた。「出入り」だから「早く来て下さい」という。何だか良く分からないが、美美はとにかく出かけてゆく。しかし相手は本物のヤクザで……。

No.6 学校は清潔に

A06(マンガ少年 1977年2月号)

 放課後。美美は真面目に掃除をしている。子分の女生徒はそれにガックリし、
「わが校のスケ番が そんなことしなくてもいいでしょうが」
と抗議する。しかし、
「だめよ 当番だもの」
と答える美美。
「少しは迫力つけてほしいなー」
とイライラする子分なのだったが、その時、廊下をくわえ煙草の男子生徒が通りかかって……。

No.7 電車にて

A07(マンガ少年 1977年3月号)

 列車の座席で、美美が読書中。その隣ではヤクザ者らしき男が煙草を吸っている。それをとがめた男の乗客をヤクザ者は殴り倒し、車内は騒然となった。ヤクザは、美美が自分を見ているのに気付いて吐き捨てる、
「ねーちゃん 何か言いたいことあったら言えよ」
すると美美は……。

*前回ではブレザー型の冬服を着ていた美美だが、このお話ではセーラーの冬服を着ている。

No.8 美美の初恋

A08(マンガ少年 1977年4月号)

 校庭の片隅で、女生徒たちが煙草を吸っている。
「いけないなー タバコなんか吸っちゃ」
と、それをたしなめたのは新任の森先生だった。女生徒たちは不愉快に思い、美美を呼んでくる。しかし彼女は森先生に礼儀正しく挨拶し、そのうえ仲良く会話を始めてしまった。子分たちは苛立って美美に、
「文学談義じゃなくて」
「ヤキ入れてほしいの」
と頼み……。

*ヒロインの美美はセーラー服だが、子分の女生徒たちはブレザー型の服を着ている。この学校では通学服にあまりうるさくないようで、学生らしく華美に過ぎないものであればどんな服でもよろしいという方針なのかも知れない。現実の日本において、女学生達が制服というものを嫌うのではなく、むしろ好むようになるのはもっと後になってからではと思われるのだが、私服よりも「可愛い制服」を好み、いろいろ着替えて学園生活を楽しんでいるのだとすれば、美美は時代を先取りしていた少女だと言えようか。
 子分のひとり、サングラスにくわえ煙草の女生徒(ぐれ子?)は時々ヘアスタイルを変えている(?)が、今回はパーマをかけている。現実にこの当時、不良女生徒のあいだではショートヘアにパーマをかけるのが流行していたと記憶する。

No.9 春を売ります

A09(マンガ少年 1977年5月号)

 学校へヤクザがやって来た。彼はここの卒業生で、「今のスケ番」に話があるらしい。そこで美美が呼ばれる。しかし育ちが良い美美は、ヤクザを珍しがって……。

*ヤクザの組がなぜ「夕日会」という名称なのか分からない。もしかすると初出誌『マンガ少年』の版元が朝日ソノラマであったことにひっかけて「朝日」をひっくりかえし、「夕日」となったのだろうか?
 「花をめしませ」というのは美空ひばり・『ひばりの花売り娘』の出だしを歌っているものと思われる。

No.10 オズマ君登場

A10(マンガ少年 1977年6月号)

 転校生のオズマは、美美の隣の席になった。
「ここの総番長はだれだ」
「あたくしですけど」
と教えられて驚くが、
「放課後 校舎の裏で待ってるぜ」
と決闘を申し込む。しかし美美にはまるっきり話が通じていなくて……。
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A00*今回登場するオズマ少年はこの後、準レギュラーとなり、最終話までしばしば出演している。美美のそばにいることを作者によって許された幸福な男性キャラクターだ。大都社・St comics版の単行本では描き下ろしのカラーイラストが中表紙に用いられているが、彼はそこにも登場している(画像参照)。

No.11 オズマ君の反撃

A11(マンガ少年 1977年7月号)

 木刀を振りかざし美美を不意打ちするオズマ。しかし武術の達人である美美には全く通用しない。何とかして勝ちたい彼は、あの手この手と考えるのだが……。

*美美の家、破風(はふ)の下のところに家紋らしいものが見えるのだが小さくて良く分からない。なお、美美はもしかしたら左利きなのではないかと思わせるコマが1箇所ある。

No.12 山籠もり

A12(マンガ少年 1977年8月号)

「夏休み おひまでしたらみなさんで 私の別荘にいらっしゃらない?」
美美にそう誘われて、子分の女生徒やオズマたちは大喜び。しかし現地へ行ってみるとそこはえらい山奥で、おまけに……。

*悩ましい美美の下着姿が1コマだけ、この回にある。

No.13 星に願いを

A13(マンガ少年 1977年9月号)

 夜道を独りで歩いていた美美は、いきなり背後から男に抱きつかれる。
「なにかご用ですか?」
 全く動じない美美がそうたずねると男は刃物を取り出し、
「おとなしくいうことを聞け!」
と言う。
「ハイ」
と笑顔で返事をした美美に、男は……。

No.14 迷刀?

A14(マンガ少年 1977年10月号)

「オイ エンピツけずりないか?」
と、教室でオズマ君が美美にたずねるや、
「けずってあげる」
と美美は答え、なんと日本刀で彼のエンピツを削ってみせるのだった。
「美美さん すごいの持ってますね」
子分たちが驚くと、
「研ぎに出すよう父からあずかってるの」だそうだ。
本物の日本刀に子分たちは興味を示し……。

No.15 ナンパしてます

A15(マンガ少年 1977年11月号)

 美男子の学生が1人で喫茶店にいる。同じ店でたむろしていた美美の子分たちは、
「カッコいいじゃんあいつ」
と気を引かれる。少年にタカろうとするのだがうまくいかず、
「美美さん たのんます ちょっと引っかけて」
と言い出すのだった。

*タイトルが入る部分以外は全てのコマが同じ大きさという、実験的な回。「宇宙戦艦ヤマト」など、細部に当時の流行が読める。

No.16 剛速球投手

A16(マンガ少年 1977年12月号)

 野球の試合中。
「ピッチャー交代!」
の一声でマウンドに立ったのは、制服姿の美美だった。なんと彼女は相手チームのバッターの所へ行き、
「ふつつか者ですがよろしくお願いします」
と頭を下げる。
「こ こちらこそよろしく」
バッターはすっかりのぼせてしまい、試合はおかしな感じになってきて……。

*台詞にある『がんばれベアーズ』(がんばれ! ベアーズ THE BAD NEWS BEARS)は1976年のアメリカ映画で、複数のシリーズが制作された人気作品。テイタム・オニール(Tatum O'Neal)が少女ピッチャーの役で出演している。

No.17 寒稽古

A17(マンガ少年 1978年1月号)

 バイクで走っていたオズマは、和服の女をはねそうになる。が、相手は美美だった。彼女は素早く宙を舞ってバイクをかわし、着地する。
「あら オズマくん あけましておめでとうございます」
 双方とも無事だったが、美美の和服は破けてしまったようだ。
「オレんちこの近くなんだ よってけよ なんか服かしてやる」
と言われて……。

*No.5に続きこれで2度目だが、和服姿だと美美の容姿はいちだんと引き立つ。正月用の晴れ着が破けるというのは金額に換算すると大変な被害のはずだが、全く平然としているあたり、美美の家庭の財力がうかがえる?
 ちょっぴりエロティックなくだりがあって、オズマの純情さが微笑ましい回。

No.18 タバコはダメよ

A18(マンガ少年 1978年2月号)

 不良女子学生たちのグループが、路上で美美たちと出くわす。
「どけ~~」
と言われ、
「ハイ」
と、あっさり道を譲る美美。子分たちは困り果て、
「あんなのにナメられてちゃダメだよ ここはあたいらのシマだぜ」
と抗議。一同は準備を整え、やりかえしてやろうとするが。

*台詞によれば美美はこの段階で「子分50人もしたがえる大(だい)スケ番」になっているようだ。
 No.1およびNo.3についで、美美は久しぶりにヘアバンドをしている。

No.19 コソドロなんです!

A19(マンガ少年 1978年3月号)

 夜。美美の家で怪しい男がタンスをかき回している。
「いらっしゃいませ」
と笑顔の美美が背後から現れ、これを出迎えた。男はびっくり仰天するが美美は、
「すみません あの~~どちらのお客さまでしたでしょうか?」
と問う。男は、
「どちらもこちらも オレはドロボーだよ」
と言って出刃包丁を出し……。

*美美の家の玄関部分が1コマ出てくる。

No.20 お花見

A20(マンガ少年 1979年4月号)

 授業中の教室。そこへいきなり教頭が入ってきて言う、
「みなさん 持ち物を机の上に出して」
ぬきうち検査だった。生徒たちは大慌てするが時すでに遅く、非情な量刑が次々と言い渡されてゆく。そして美美の番となった。彼女の机の上には、なぜか重箱や握り飯などがあって……。

*美美は料理の腕前も「バツグン」であるらしい。もし妻となったら家庭を天国にする能力を持つこうした娘は、まさに男の夢だろう。
 校長が登場しており、No.4の時と同じく女性なのだが、こちらはメガネをかけていて、髪型もちょっと異なる。

No.21 マラソン

A21(マンガ少年 1978年5月号)

「きょうの体育はマラソンだ」
と言われて全員が走り出す。が、その最中に美美のもとへ子分たちが駆けつける。
「ケンカのすけっとたのんます!」
 美美が行ってみると、大柄な男子学生に女生徒がのされていた。
「ひどいこと!」
と驚く美美に、彼は挑戦してきて……。

No.22 拉致

A22(マンガ少年 1978年6月号)

 美美はただ1人、他校(だろう)の不良女生徒たちがたくさん待っている場所へ連れてこられる。万引きを警察へ通報された報復をしようというのだった。しかしあまりにも真面目な美美には、彼女たちの話がまるっきり通じない……。

*わけありで、ちょっとお色気の場面がある。

No.23 雨の日は危険がいっぱい

A23(マンガ少年 1978年7月号)

 駅の出口。美美が雨宿りに立っていると、若い男が声をかけてきた。
「きみ かさないの? 送ろうか?」
 するとカゲから美美の子分たちが登場、男は彼女たちを送る破目になるのだった。さて、最後に美美ひとりが残ったが、美美も傘は持っていない。そこへ車がハネをあげて急停車し、男が降りてきて言う、
「よごしてしまいましたね おわびに送りましょう」
しかし美美は……。

*タイトルの入るところ以外、全てのコマを同じ大きさにするという実験がなされている。
 「加速装置」というのは石森章太郎の作品『サイボーグ009』にからめたものか。

No.24 情は人の為ならず

A24(マンガ少年 1978年8月号)

 学校。プールでは生徒たちが楽しそうに泳いでいる。しかしその上方の教室では美美たちが授業中だった。何を思ったか、美美はいきなり教室の窓から、数階下にあるプールへ飛び込む。実は、おぼれているネコを発見し、助けてやる為だったのだが。

*サブタイトルが内容に合致していない。「人に情けをほどこせば、必ず自分もよい報いを受ける」というのがこの諺の意味であって、「人を甘やかすのは有害なだけ」といった意味ではないからだ。しかし、オチでは美美に、この本来の意味がまさしく当てはまっている!?

No.25 アルバイト

A25(マンガ少年 1978年9月号)

 夏休みのアルバイトいっしょにどうか、と誘われた美美は父に相談する。父は、
「ほう それはよい おまえは世間知らずだから勉強になるだろう」
と許してくれた。が、
「どんな所か わしもついていってやる」
ということになり、行ってみるとそこはキャバレーで……。

*屋号「ヤングキャバレー ニュー セルフ」というのは当時刊行されていたエロ劇画雑誌の誌名をもじっているものと思われる。

No.26 取材

A26(マンガ少年 1978年10月号)

 美美たちの学校へ「バイオレンスエログロ社」の編集長と記者がやってきた。スケ番の生活を取材したいらしい。いちおう美美にあわせてもらえた2人は、
「絵になるー!」
と大喜び。ハデな場面を期待して美美にはりつき、取材開始するのだが。

*美美の台詞によると、この子はピアノも弾けるらしい。

No.27 文化祭

A27(マンガ少年 1978年11月号)

 美美の学校では文化祭の真っ最中。しかしその中に「スケバン・ゾーン スリル! サスペンス!」という看板が出ている。
「お化け屋敷みたいなもんだろ おもしろそうだ」
と2人の男子生徒が入ってみたら、そこは……

*「スケバン・ゾーン」という変なアイディアが面白い。日頃とはかけ離れた美美の態度が「チャリティー」で見られる。

No.28 スケバンJr

A28(マンガ少年 1978年12月号)

 道を歩いていた美美は、幼児たちとすれ違う。が、幼女とぶつかってしまい、
「ごめんなさい おじょうさん」
と謝ったが、幼い女の子は言う、
「ごめんですむか バーロー ちょっとツラ貸せ!」
なんと彼女は、男の子3名を手下にしていて……。

No.29 スキー

A29(マンガ少年 1979年1月号)

 雪山。子分たちとスキーをしに来ているものの、スキーをやったことがない美美。教えられて目覚しく上達したのは良かったけれど、子ウサギに衝突してしまった。助けあげてみたらウサギは、住所の書かれた名札をつけていて……。

No.30 オズマ君映画に行く

A30(マンガ少年 1979年2月号)

 待ち合わせをし、オズマ君と2人きりで映画館に入る美美。オズマはデートを楽しみたいのだが、純真無垢な美美が相手だとどうにも調子が狂って……。

*今では消滅したかも知れないが、この当時は「18歳未満お断り」の映画を専門にやる映画館が存在した。

No.31 カゼひきの美美

A31(マンガ少年 1979年3月号)

 病床に伏した美美がふと気付くと、誰かが髪を引っ張っている。見てみたらそれはネズミの仕業で、
「かけっこは村で一番でした ぼくと勝負してください」
と頼まれるのだった。美美は力を振り絞って、ネズミの挑戦を受けるが……。

*童話調のトビラもいいけれど、熱を出しているらしい美美の姿に絶妙な色気が漂う。寝間着が(パジャマではなく)ネグリジェであるあたり、いかにも彼女らしく美しい。このちょっと不思議な話は、大都社 St comics版単行本のカバーで描き下ろしイラストの題材になっているようだ。美美にはコスプレ趣味があるのかもと思わしめるコマがあり、そうだとすれば毎回のように違う制服を着ているのも頷ける!? 
「あなたは やさしいひとね」は、『花と小父さん』(1967)の一節か。

No.32 危険車両

A32(マンガ少年 1978年4月号)

 電車内、美美はシートに座り本を読んでいる。と、そこへ真面目そうな男子学生が1人やってきて、
「こ こ こ これ読んでください」
と美美に手紙を渡し、逃げてゆく。しかし走っている電車の中、逃げる場所があるわけもない。息を切らせていたら、笑顔の美美がやってきて……。

No.33 新任教師

A33(マンガ少年 1979年5月号)

 職員室だろう、やってきた美美は若い男性教師からプリントを受け取る。しかし教師は美美に一目惚れしてしまった様子で……。

*台詞から、美美のクラスが「2B」であることが分かる。また英文の台詞に出てくる Edmond Hamilton は1977年に死去したSF作家で、その作品『スターウルフ』(Star Wolf)と『キャプテン・フューチャー』(Captain Future)とはそれぞれ1978年に日本でTV番組となり、前者は実写特撮ドラマ、後者はアニメで放送されていた。

No.34 金の魚

A34(マンガ少年 1979年6月号)

 独り、プールで泳いでいる美美。子分である女生徒たちは
「いくらなんでもまだ冷てーよ」
と震え、水に入ろうとはしない。なおも美美が泳いでいると、釣り針が耳にひっかかった。美美を釣り上げたのは奇妙な男で、
「逃がす前に三つの願いきいて」
と頼んでくるのだったが……。

*美美の水着姿はNo.24のトビラとこの回だけで、どちらもワンピース型なのが慎ましい彼女の人柄と良く合っているようだ。

No.35 猫のすず

A35(マンガ少年 1979年7月号)

 街角、彫刻の前に立っている美美。
「おとうさま どうしたのかしら いっしょにお食事する約束なのに」
と困っていると、
「待たせたな」
と大きなネズミがやって来て、美美に言う。一瞬沈黙があったが、結局、美美はネズミの尻尾に引かれてゆき……。

*動物が登場する回は美美が不思議な経験をするという点で共通しているようで、これは(ウサギを追いかけていって話が始まる)『不思議の国のアリス』(Alice in Wonderland)か何かのイメージが根底にあるのだろうか? 冒頭の美美は体型が3.5頭身ほどに描かれ、ちんちくりんな姿もまた可愛らしい。「いんべーだー」というのは、コンピュータゲームの一種で1978年に大流行した「スペースインベーダー」を指しているものと思われる。

No.36 さようなら

A36(マンガ少年 1979年8月号)

 美美が転校することになった。全員がショックを受け、
「ひえー」
「てんこう~~」
「やだ~~」
の大合唱。真面目な美美は、あれこれ準備万端ととのえていたのだけれど……。

*これが最終回。子分たちのみならず教師からも、全校生徒からも、全ての人から愛された美美は笑顔で手を振りながら、夏の景色のなかへ去って行く。全ては幻だったかのように。
 しかし、夢のように楽しい夏休みが終わってしまっても、次の年には再び美しい夏がやってきたものだ。美美も、また帰ってきてくれるかも知れない。きっとその時も彼女の美しさは少しも変わっておらず、いっそう素敵な女性になってくれているに違いない……。

ジェイシー

A37
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(別冊少年チャンピオン 1971年5月号)

 お尋ね者の肖像と賞金を示したポスターがある。通りがかった男はこれを見、どうやら賞金稼ぎを決意した様子。しかしそのお尋ね者である魔女、フルーツ・パーラは、可愛い外見に似ず手ごわい相手なのだった。その退治を命じているのは若くて可愛い女帝、プリン・サンデーだったのだが、これまた外見に似ずメチャクチャ性格が悪い。だが怖いもの知らずの主人公ジェイシーはそんな女帝もなんのその、あっさり御して賞金を吊り上げ、魔女狩りにと出かけてゆく。しかし、実は相手は1人だけではなく、身に危機が迫っているのを彼は知らなかった……。

*朝日ソノラマ サンコミックス版単行本では、『美美』全話の後にこの作品が収録されている。32ページというのは月刊誌だとごく平均的な枚数かも知れないが、吾妻マンガのなかでは長めの作品と言えそうで、珍しいのではないかと思われる。
 枚数があるぶん、物語は結構入り組んでおり、主人公1人に対して敵1人、といった単純構造の劇にはなっていない。敵は複数登場し、かつそれら敵たちの間に協調関係は無く、各自が個別の利害によって行動している。その一方で、主人公に味方はおらず、その主役たる立場を際立たせた活躍を見せる。こうした登場人物の配置に芸があると思う。
 そして物語の展開も一本調子ではなくて上手くひねってあり、「それからどうした?」という物語の基本的な興味と共に、「えっ、なぜ?」という、理由を知りたい興味でも読者を引き込む仕掛けがある。そしてそれらを駆使して読者を騙しておき、加えて、逆転、種明かし、どんでん返しといった定石の手法も使いこなしているのだから見事。作者は21歳の時に、もうこれだけの技量を持っていたのだ。
 題名は主人公の名前と一致するが、フレドリック・ブラウン(Fredric Brown)によるSF短篇小説にも同じ題名のもの(Jaycee)が存在するので、そこにひっかけた可能性もあろうか?
 主人公の名前「ジェイシー ジェムズ」は、実在したアメリカ西部開拓時代の伝説的な無法者、ジェシー・ジェイムズ(Jesse Woodson James)をもじっているものと思われる。アメリカ製西部劇映画は1960年代に日本でも大流行し、その影響を受けているのか、吾妻マンガでも時々、その要素が登場するようだ。もしかすると作者はそうした娯楽作品からも、作劇の芸について多くを学びまた盗み取ってきていたのかも知れない。
 吾妻マンガの短篇は、かように堅固な基礎をふまえたうえで生まれてきている事が分かるのではないだろうか。
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あとがき
(描き下ろし 1994年2月)

A38*大都社 St comics版単行本『美美&亜衣』では、最後にこれが収録されている。台詞には「アシストいないから」という部分があって、この当時の執筆環境がうかがえる。

はじめに

004kaku
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 男性読者にとっての「見たい」要素と「見たくない」要素、その両方を併せ持っているのが『格闘ファミリー』のヒロイン(?)、乱子ではないかと思う。
 なぜなのか良く分からないが「戦う乙女」のイメージには不思議な魅力があるようだ(もしかすると「母」というものの強さや気高さをそこに連想するのだろうか?)。たぶん日本だけでなく外国の文化にも、そうした美感覚で結晶したかのようなキャラクターを何人も発見できるだろう。
 乱子にはこの魅惑的な幻想が備わっている。
 いっぽう、こうした美は(男にとって)「見たくない現実」を想起させる苦味をも時には含む。体力においてさえ男を上回る女性たちが世の中にはいる、という事を認識させられ、それによって劣等感や焦りを味わわされるのだ。加えて、「女性は、しとやかで、か弱いもの」という(男にとって甘味のある)先入観を破壊されるような危機感もおぼえさせられそうだ。
 乱子は、こうした負(ふ)の特性も持っている。
 なんとも難しい。だがこうした事は、バランスをとるさじ加減によって結果が違ってくるのではないかと思う。
 最近の流行を表現する俗語に「ツンデレ」というのがある。これは、「日頃はツンとして高慢で無愛想だけれど、一度惚れたら別人のようにデレっとなる(女)」といった意味らしい。そうだとしたら、そこにあるのは「対比によって生じる強調」なのではないか? 勇ましい雰囲気の女性が、何かの拍子でひどく恥らうような態度を見せると、その落差が大きいためにすごく可愛らしく感じられる、といったふうに。
 乱子にもこの要素はある。恋におちて、自分をより良く見せようと無理をするくだりは、やはり平素との対比から強調が起こり、ひときわ少女らしく感ぜられるようだ。
003kaku_mag こうした乱子の人物像が、作者の発想から生まれてきたものなのか、編集部からのリクエストによって生まれたのか、そのへんの事情は分からない。いずれにしても乱子は、当時の世相をよく反映したキャラクターに思われる。伝統的な性役割から解放された女性像というのは、さかのぼればもっと昔から存在したかもしれない。だがそうしたものはおそらく、知識人や時の政府など、言わば「上から」与えられ示されたモデルだったのではないか? しかし1970年代すなわちこの『格闘ファミリー』が連載された頃の解放的な女性像はこれと異なり、「下から」、大衆の中で自然発生的に沸き起こり(?)広く人々に受け入れられていったような特徴を持っている。こうした時代背景は第1話の冒頭に描かれている女子プロレスのTV中継などにうかがえるようだ。
 そして、これも当然と言えば当然だが、「女はどうあるべきか」という伝統的なイメージが廃れてゆくと同時に、「男はどうあるべきか」というイメージにも瓦解が発生した。男ならば強く逞しく、といった社会からの要求や期待が薄れると、男たちは軟弱になってきたのだ。主人公(だろう)の乱子もこの点を嘆いているかととれるくだりがある。「人間としての女の自由を自ら主張しているような乱子が、男には伝統どおりのタイプを期待するとしたら、片手落ちの自己矛盾ではないか」と読者は思うかもしれない。が、乱子の場合は「男も女もなく、人間が生きることは戦いそのものなのだ」といった価値観(そしてそれを体現しているような家族)を持っているゆえにこうした反応をするのだろう。
 で、彼女のこの家族全員が、ここでは主人公という立場になっている(それで題名が『格闘ファミリー』なわけだ)。乱子は5人家族の中の1人であり、その活躍も単純計算では5分の1にとどまってしまう。読者としての素人判断ではあるけれど、レギュラーの登場人物が多いこのマンガは、月刊誌よりも週刊誌での連載にむしろ適していたのではという気がする。連載は計7回だったが、この一家の5名について充分描くにもやはり期間が短すぎたように思う。
 乱子ひとりにスポットをあてても、充分面白く掘り下げることが可能だったのではと考えさせられて、それがこのシリーズの惜しまれる点ではある。
 画像は、最初の単行本(奇想天外社版)のカバーと、その復刻本(収録内容は同じ、マガジンハウス版)の表紙だ。

出没格闘一家

B01_1(月刊少年チャンピオン 1978年1月号)

 悦楽園スタジアムで、全日本女子プロレスの試合中継が行なわれている。観客席にいるのは若く可愛らしい女性たちばかりだ。赤コーナーに外人レスラー、そしてその相手となるのは本日がデビューの子持ちレスラー、ヘルキャット・格闘。選手たちがリングに上がるや、観客である女性たちは血に狂った妖怪のような形相へ豹変して大騒ぎを始める。リングでは外人レスラーが凶器を使った反則攻撃をし、ヘルキャット・格闘は大ピンチ。もはや勝負あったか、と思われたその時……!

*初出誌でのサブタイトルは『ママのデビュー』であったらしい。観客もムチャクチャなら、主役の格闘一家もムチャクチャ、大混乱のうちに第1回の幕が開く。冒頭、アナウンサーの言葉にもあるとおり、このころTV中継されていた女子プロレスの観客は、男よりも「お嬢さんがた」の方が圧倒的に多かったのかも知れない。悦楽園スタジアムというのはけだし、東京都文京区にかつて実在した『後楽園スタヂアム』をもじっているものと思われる。劇中、選手の名前などでもこのころの史実がネタにされているようだ。
 一家揃って初登場し、「格闘ファミリー」を名乗るが、個人名としては今回、母親のリングネームが紹介されているのみである。少人数のチームが主役をつとめる物語は1960年代で既に、日本作品でも外国作品でも存在した。吾妻ひでお自身がデビュー前に読者であったという石森章太郎のマンガにも、戦隊ものの原型とおぼしき作品が複数ある。しかし、チームで主役をなすという形式は吾妻マンガでは、どちらかと言えば珍しいもののようで、本シリーズの他には『贋作ひでお八犬伝』(ただしこれは、ヒロインがチームを代表しまとめているように思える)があるくらいだろうか? 格闘技ファンであるらしい作者の作品に格闘技を正面から取り上げ題材としている作品が殆ど無いのも不思議なら、石森章太郎の入門書で修行したにもかかわらず作品形式で影響を受けていない(?)かに見えるのもまた、吾妻マンガの不思議なところと言えようか?

負けるが敗者

B02_1(月刊少年チャンピオン 1978年2月号)

 学校。柔道部の部室で、格闘ファミリー最年少の格闘始が一人勝ちしている。ついに全員を倒し、カンバンをもらってゆこうとしたら、一人の少年がその前に立ちはだかる。すると今度は逆に、始のほうがボロボロにやられてしまった。やっとの事で這うようにして帰宅すると、彼の敗北を知った家族は……。

*「敗北はダメよ」が初出誌サブタイトルらしい。今回、格闘一家全員の名前が初めて明らかにされている。

知性と野性を乗り越えて

B03_1(月刊少年チャンピオン 1978年3月号)

 登校の途中だろうか、乱子と始の姉弟は道を走りながらトレーニングに励む。乱子は相手が教師でも平気でぶちのめし、生徒たちも誰彼構わずやっつけてしまう。とうとう授業をサボって外でトレーニングするのだったが、予想外のケガをした。すると、そこへ通りかかった勉強熱心な様子の男子生徒が手当てをしてくれて……。

*第1話で母、第2話で弟、そして今回は乱子に物語の焦点が合わされている。「乱子はおしとやか!?」が初出誌サブタイトルだったようだ。

地上最強念力空手

B04_1(月刊少年チャンピオン 1978年4月号)

 「格闘道場」「空手 すもう ボクシング なんでもこい!!」と表札が出ている家、そこが乱子の自宅だった。格闘家では食事をするにもまず家族を倒してからでなければ、ありつけない。どうにか食事を終えて乱子がシャワーを浴びていたら、ママが、そしてパパまでもが、ダメージを受けた様子で現れる。驚いた乱子が風呂場から出ると、弟の始も倒されていた。一体どんな敵がやって来たのだろうか!?

*格闘家の玄関(?)が描かれており、どうも乱子の父や祖父は道場での弟子の指導を職業としているらしいことがうかがえる。念力空手のアイディアがいかにも少年マンガらしく楽しい。初出誌サブタイトルは「念力空手マン」だったようだ。

胸がふくらむストレート

B05_1(月刊少年チャンピオン 1978年5月号)

 学校の体育館だろう、東中学と阿素湖中学とでボクシング対校試合が行なわれている。乱子の学校は選手が全員やられてしまい、とうとう乱子がリングに上がる番になった。すると形勢は逆転、乱子ひとりが相手校の全員を倒してしまう。それを見ていた男が、乱子のところへやってきて言う、
「うちからプロとしてデビューしてみんかね」
乱子はこの誘いを「おもしろそうだな」と感じ……。

*阿素湖中学というのは『やけくそ天使』主人公の名前(阿素湖素子)からきているのだろう。再び乱子が物語の中心となっており、そのゆえというべきか、ラブコメの要素も入って微笑ましい回。初出誌サブタイトルは「新人王をめざせ!」。

殺五郎ひーばー

B06_1(月刊少年チャンピオン 1978年6月号)

 電車の中。2人のヤクザ者が若い娘にちょっかいを出している。娘は助けを求めるが、ヤクザたちは武器をちらつかせるので誰も手が出せない。ところがその車両には格闘ファミリーのおじいさん、殺五郎が乗り合わせていた。殺五郎は娘を助けようとして……。

*初出誌サブタイトルは「格闘殺五郎の恋」。「しんじゅく(新宿)」というのは東京都に実在する駅名また地名。

馬も四つ足野球も格闘

B07_1(月刊少年チャンピオン 1978年7月号)

 乱子は、商店街チームにピッチャーを頼まれ、野球の試合に出かけようとする。ところが乱子の家族たちは野球というものを全く知らない(!)のだった。乱子は「来なくていい」と言うのだったが、一家全員が応援にとついて来てしまう。試合は始まり、乱子は見事な投球をするのだけれど……。

*これが最終回で、初出誌サブタイトルは「野球って格闘技!?」。格闘ファミリーの人々がスポーツ全般に強いのかと思いきや、格闘技いがいはまるっきり、というのが意外で笑える。そしてそういう人たちがこぞって出てきてしまうとなると、もうムチャクチャになるのは火を見るよりも明らかなわけで、コメディの王道を行く大団円になっている。乱子もよほど慌てふためいているのか『地上最強念力空手』では「パパ」と呼んでいたのが今回は「とうちゃん!」と叫んでいる有様。
 ユニークな一家なのだが連載が7回までだったのは惜しい。もっといろいろ展開できたシリーズなのではと思う。

ラブ・ハンター

B08_1(少年チャンピオン 1974年12月25日 増刊号)

 夜、自宅の屋根に上って空を見ている、ひでお。「円盤の写真撮って金もーけする」という計画なのだった。しかし円盤はいっこうに現れない。探しているうち、ファインダーの中に美少女が見えた。
「ややや!? あれは我が校一の美女 みゆきちゃん」
こっちの写真の方が売れそうだと判断し、撮影しまくる、ひでお。と、やがて少女は服を脱ぎ始める。フロへ入るところだったのだ。興奮したひでおは屋根から落ちてしまう。だが写真はしっかり撮った後で……。

*トビラからして夢のカケラも無いようなクソミソになっており、もうこれはのっけから、少女マンガ雑誌ならば絶対に載らないようなラブコメ(?)なのだった。いやいや、「人間って(中略)汚い生き物」などという台詞があるあたり、恋愛というときれい事や感傷に走りがちな人の心を風刺しているのかも!? みゆきは最初、いささか高慢で感じの良くない少女として登場するが、それによって、主人公の行動が悪辣(あくらつ)であるとはいえ中和されるような効果を及ぼしているようだ。
 題名は、日活ロマンポルノの初期作品に『恋の狩人 ラブ・ハンター』という成人映画(警察の摘発を受け裁判となったらしい)が存在するので、そこからもじったのかも知れない。
 汲み取り式の、水洗ではない便所は、このころまだ多く存在したようだ。

ゴキブリくん

B09_1(少年チャンピオン 1976年9月20日号)

 授業中だが、教室に虫山(むしやま)くんの姿が見えない。欠席かと思ったら、机の下に隠れている。直射日光をあびると頭がいたくなるのだという。「いつも夜中にコソコソつまみ食いしてるうち こーゆー体質になったのです」とのこと。先生は「教育者として このままほっとけん」と考え、まともにしてやろうとして虫山くんを外へ連れ出そうとするのだったが。

*ちょっとSFな? お話。『ふたりと5人』の連載が少年チャンピオンの1976年9月6日号までだったので、その直後の時期に発表された読みきりである。

吸パイ鬼

B10_1(鏡 第2号 1973年7月31日)

 寒さのせいもあってか、若い娘がちょっと野ションベン。そうしたら突然、地中から男が出現する。
「ありがとうお嬢さん あなたのオシッコで私は三千年の眠りからさめた」
と述べる男。もしや吸血鬼! いや、そんなありきたりのもんではない、彼は「吸パイ鬼」だったのだ……!

*これが『吸血鬼ちゃん』シリーズの原型になったのでは? と思える作品なのだが、発表されたのは連載開始(別冊少年チャンピオン 1973年 春季号)よりも後になっている。とはいえ、欄外にある手書きの文言によればこの作品はもともと「未発表」になっていたらしく、だとすれば『吸血鬼ちゃん』シリーズ開始よりも前に執筆脱稿されていたのかも知れない? 冒頭に出てくる少女の髪型なども『吸血鬼ちゃん』シリーズ前半のマドンナである由美子に似ていると思えるのだが、正確な真相は不明。

パンのみに生きる

B11_1(中学三年コース 1974年4月号)

 ゴミをかきまわし食べ物を探していた主人公の男は、自分の隣でやはり同じ事をしていたネコと、食うか食われるかの対決になる。そこへ不幸にも通りかかってしまったのがミニスカートの美女。いきなり男は彼女の太ももにかじりつき、食おうとする。美女は恐怖したか、哀れに思ってか、はたまたヤケクソか、男とネコに食事をおごってくれるけれど……。

*『ノラ犬野郎』第1話。このシリーズは全部で6話あるものの、掲載されていたのが学研の『中学三年コース』なのだから驚く。"中三コース"は今や休刊したようなので一応説明しておくと、これは活字が内容の大部分を占める学習雑誌であって、どちらかと言えば堅苦しく地味な出版物だったのだ。
 にもかかわらず本作品には、およそ勉強やら教育やら、はては学校生活にさえ全くといって良いくらい殆ど何の関係する要素も無いばかりか、むしろ教育上きわめてよろしくなさそうなマンガになってしまっており、しかもその不健全路線は回を重ねるごとにどんどん暴走して、最終回のトビラにいたってはもう性犯罪変質者大活躍マンガかと誤解せしめるようなそれになっている。よくぞこれでボツをくらわなかったものだと不思議でならないのだが!?

すがって生きる

B12_1(中学三年コース 1974年5月号)

 橋の上を通りかかった娘たちに抱きついたり噛み付いたりして「おめぐみ」を乞う、主人公。すると突然、同業者であるらしい半裸の美女がケリを入れてきた。
「このへんはおれっちのシマだぞ!」
 しかたなく場所を変える主人公とネコだったが、どこへ行っても彼女に「ショバ代」を要求され……。

*『ノラ犬野郎』第2話。主人公の帽子は初登場の時と異なり、またネコは口ヒゲと身体の模様が今回なくなっているようだ。
 主人公が路上で物乞いをしているのだが、これは本当を言えば「軽犯罪法」に抵触する行為で(『失踪日記』p.60に「こじき罪」とあるのはこれを指しているものと思われる)、学習雑誌に載るマンガの主人公がこういう事を日常やっているのが果たして教育上どうなのだか!?!?

敗者をムチ打つ

B13_1(中学三年コース 1974年6月号)

 主人公は窓の前を通り、メガネをかけた娘が机で何か必死になっているのを見かける。
「もしもし あんたなにやってんの?」
「勉強にきまってるでしょ!」
「どれどれ へー」と主人公は娘の部屋に入り込み、本をひったくるや、それで鼻をかんでしまい……。

*『ノラ犬野郎』第3話。主人公の帽子とネコの身体の模様(そしてヒゲ)は、再び初登場の時と同じに戻っている。それにしても、本編と殆ど関係ないエロなトビラを描いているうえ、一所懸命に勉強している者をコケにしてからかうという、かようなマンガを受験生たちに読ませて良かったのか~!?!?!?

諸悪の基を求めて

B14_1(中学三年コース 1974年7月号)

 幼い少年の手を引く母親を見かけ、あたたかい家庭がふと恋しくなる主人公。かくて、通りがかった主婦にとびつきそのオッパイを吸うのであった。主婦は必死に抵抗するが、主人公は吸い付いたらどうあっても離れず……。

*『ノラ犬野郎』第4話。シュールでむちゃくちゃ、まさにマンガでなければ不可能な光景の大行進なのが爆笑もの。トビラのモナリザは、実物がこの年に日本でも公開されたので時事ネタとして描かれたのだろう。「たべたいときが うまいとき」という台詞は、1960年代末から普及しはじめたレトルト食品CMのパロディか。念力うんぬんという台詞は1972年ころ話題となった「スプーン曲げ」がたぶん元ネタだろう。「横断」と書かれた旗は最近見かけないが、このころには信号機の無い横断歩道を渡る時、こうした黄色い旗を使うことになっていた。
 サブタイトルは次回のそれ(『またある時は母のない子のように』)と入れ違いになってそのまま単行本が発行されてしまったのではないかと思えるのだが、確かなことは不明。

またある時は母のない子のように

B15_1(中学三年コース 1974年8月号)

 海水浴場へ来ている主人公とネコ。しかし大混雑で海も見えないありさま。
「そうだ いいこと考えた」
と、なぜか主人公は「水着コンテスト 一等はペアでハワイへ」という立札をし、審査員になりすます。実はこれ、手の込んだ計略が裏にあって……。

*『ノラ犬野郎』第5話。ちょっとした風刺があり、その点からすると前回のサブタイトル(『諸悪の基を求めて』)がむしろ当てはまりそうな気がする。くどいけど、学習雑誌マンガの主人公がこういう……!?!?!?!?!?

勝った者がみなもらう

B16_1(中学三年コース 1974年9月号)

 いちゃついているカップル。そこへイカれた様子の主人公が乱入する。
「でで出た~」
と慌てたカップルの前に、意味ありげな装束のネコが現れて主人公を調べ、
「フム……やはりこの男には悪魔がとりついている!」
と診断。悪魔ばらいをしなくてはと言うのだが。

*『ノラ犬野郎』最終回。ネコがトビラで「えー クソシスト」と言ってクソをしているが、これはこの年の夏に日本でも公開された映画『エクソシスト』(The Exorcist)のパロディだろう。「百恵」はまず間違いなく歌手の山口百恵からとっている。「大泉学園」と「桜台」は共に、東京の西武池袋線にある駅名、および地名。「ガブリ(フランク)」は当時TVでCMが流されていたソーセージの商品名らしい。
 それにしてもやっぱり、学習雑誌で受験生に読ませるマンガがこれで大丈夫だったのか~!?!?!?!?!?!?
 学研の編集部はいったい何を考えていたのであろうか。
..........................................................
こうして私はメジャーしそこなった

B17_1(単行本描き下ろし 1980年10月)

 編集者(だろう)から「マニア受け」だと警告され、「人気のないマンガはみんなカスなんだ」と、メジャー路線に作風を調節したが……という回想と、その後の抱負について述べられている。

(単行本『格闘ファミリー』は、ここで終わっている。)

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