カテゴリー「16 やどりぎくん/ハイパードール」の記事

はじめに

(2006.12.8.付記:本日、新発売の『ネオ・アズマニア2』(ハヤカワコミック文庫)を入手。正味約217ページ、定価620円+税。内容は以下のとおり。
Na2○遊歩道
○ハイパードール(全9話)
○プリティギャルズ(全6話)
○パンドラ
○島島ランド(全12話)
○蛮人ヒロコの逆襲
○狂乱星雲記(全7話)
○らくがきbook
○あとがき
 当ブログではこれらのうち、
『遊歩道』をカテゴリ『十月の空/CD-ROM/夜の帳の中で』にて、『パンドラ』はカテゴリ『ミニティー夜夢』で、『島島ランド』はカテゴリ『メチル・メタフィジーク』で、『蛮人ヒロコの逆襲』はカテゴリ『ひでお童話集』で、『狂乱星雲記』はカテゴリ『不条理日記』で既に紹介させて戴いています(……つまりは、かように幾つもの書籍を入手しなければこれまでは読めなかったものがこの『ネオ・アズマニア2』に今回収録されているわけで、この点非常にありがたい1冊になっていると思う)。
Na2ato 『らくがきbook』は2003年に描かれたイラストレーション13葉を収録。『あとがき』は4ページのマンガで、「思えば1978年~82年頃までの5年間ぐらいが私の絶頂期でした」と回想(?)があり、出版界で遭遇した怪人編集者(?)の思い出もある。)
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 『やどりぎくん』は秋田書店の月刊少年チャンピオンに連載された(1978年8月号~1979年12月号)作品で、全話を掲載された順に並べると以下のようになる。

・一人暮らしの四畳半
・ぐーたら哲学
・(仕送りが欲しい)
・あつい友情
・[甘い生活!?]
・ゆく年くる年
・やさしさがほしい
・(プロはきびしい!!)
・愛情べんとうはどんな味!?
・(ネズミ取りがこわい!)
・スポーツで汗を!!
・忘れ物はぼくの物!!
・[海水浴の楽しみ方]
・アルバイトでかせごう!!
・(やどりぎの上品な生活)
・亭主関白のゆーがな生活
・それぞれたくましく!!

Yadorigi0 単行本『やどりぎくん』は全1巻で、おくづけによれば1980年1月10日に初版発行されたのだが、上記リストのうち"( )"でくくった回は収録されなかった(後日、単行本『ハイパードール』(1982年6月20日)に収録、刊行されている)。また"[ ]"でくくった回は、連載された順序と単行本での収録順序が異なる。このブログではこれら2冊の単行本をテキストに用いて、連載時の順序にしたがい、かつ全話をまとめて紹介しようと思う。
 ちょっと気になるのは、単行本収録にあたって"選り抜き"が行なわれた際、一体何を基準にしたのだろうか? という点だ。大雑把に結論すると、どうも「奥さん」が全く(あるいは殆ど)登場していない回が外されたように見える。 『失踪日記』p.142によれば「ロリな奥さん(?)のキャラにコアなファンが」ついたようで、この人が主人公以上に人気者だったらしいことがうかがえるが、"選り抜き"もその結果だったのだろうか。

 主人公の「やどりぎくん」は独り下宿生活をしている学生。しかし勉強するでなし働くでもなし、なろうことなら全く何もせずにいたいと願っている(?)かのような少年だ。そしてなぜかそういう彼に思いを寄せる「管理人の奥さん」がいて、2人の間にいろいろ障害はあるが(だから尚更に燃え上がって?)相思相愛という状況で物語は展開してゆく。このやや風変わりなラブストーリーが、第1話から最終話までをつらぬく主筋(おもすじ)になり、各回ごとの事件が脇筋をなすという構成になっているように思うのだけれど、どうなんだろう。
 「ラブストーリーとしては要するに、ピーターパン(いつまでも大人にならない男)とウエンディ(そういう男を好んでくっつく女)の物語なのではないか」と思われるかも知れない。かりにそういう面が無くは無いとしても、さらにユニークな点がこの作品にはあるように感ぜられる。
 まずこのカップルにかなり年齢差のあることが目に付く。これだけ開きのある2人が恋仲になるのは、吾妻マンガにおいてのみならず、全ての少年マンガを探してみても他にちょっと見当たらないのではないかという気がする。本当にうまくやっていけるのだろうか。
 次にカネの事が心配だ。まだ学生で経済力は無い(その上もしかするとこの先もそのままかも知れない)やどりぎくんを敢えて選んだ奥さんには金銭感覚というものがないのだろうか。1人の娘を持つ母親という身でありながら判断力が少し幼いのではという気がしてくる。
 しかし……次の点もまた事実だろう。すなわち、若さもやがて確実に失われてゆくはかないものであり、カネも決して不変不動に頼れるものではない。
 だとすれば、若さやカネについて考量するのは確かに堅実で無難ではあろうけれど、必ずしも絶対的な最善ではないのかも知れない。むしろそれらの要素を、しょせんは不確かなものでしかないと考え、全く度外視してしまっているこの2人はある意味では賢明なのかも知れない。年齢だのカネだのをあらかじめ計算してから恋をするより、よっぽど純粋で真摯(しんし)といえるのかも知れない。

 作者は単行本『やどりぎくん』のカバーで次のような序文を書いている。「人はなぜ働かねばならぬのか? なぜ学校へ行ったりしなくてはならぬのか? 一日中酒のみながらゴロゴロしていてはなぜいけないのか? この漫画はこーいった深淵(しんえん)にして哲学的なテーマをついきゅーしたものです。うー、すごい!!」
 これはまあ冗談半分であったとしても、やどりぎくんと奥さんを見ているとなんとも幸福そうだ。赤の他人の目を通せば、変わり者どうしのカップルとしか思えないかも知れないが、彼らの姿には静かな主張があるかに見えてくる。「いつか若さが失われてもいい、裕福になれなくてもいい。何よりも、本当に好きな人と一緒にいられさえすればいい。自分の愛する人と生きてゆけるなら、ただそれだけで、何もいらない。愛し合った相手が喜んでくれるなら、ただそれだけでとっても幸せなのだ……。」
 ひとは愛し合う対象を持つ事で、生きる意義を見出せるのかも知れない。

一人暮らしの四畳半の巻

01_4(月刊少年チャンピオン 1978年8月号)

 昼の静かな住宅街に、古びたアパートがある。その2階の窓から1人の少年が弓を構え、何を狙ってか矢を放つ。矢は、隣の畑に実っているトマトを貫いた。矢には紐が付いており、少年はそれでトマトを手繰り寄せ、食っているのだった。続いて放った矢はしかし、そこで作業していた農夫の尻に命中してしまい……。

*カネを払わないで食料を手に入れようと、あれやこれやの手を尽くす主人公。そんな彼の日常と、彼をとりまく主要な登場人物たちを紹介している第1話がこれ。しかしたんなる設定説明には終わらず、各人の性格が良く分かるようになっている。主人公が家賃滞納をしらばっくれると困ってポロポロ泣き出してしまう奥さんは、なんともか弱く可愛らしい。それと対比されるかのように勇ましく立ち回る、不良少女の冷子。全く無言でありながら、自分の母と主人公との恋をしっかりさえぎる幼女のミヨ。人物の配置は巧みで、みな生き生きしている。
 主人公の外見からして何とも独特だ。紐をズボンのベルト代わりにしていたり裸足で外出していたりと徹底的な貧乏ぶりで、さながら終戦直後の浮浪児みたいな第一印象があり異様に目立っている。また、主人公が主人公なら、その相手役のヒロインも(同窓生の冷子ではなくて)若い未亡人というあたり、おそらくきわめて珍しい。『ちびママちゃん』の終了から8ヵ月後、同じ雑誌で連載開始された作品だ。

(注:以下は雑談で、直接関係ありません)
 アシスタントだった沖由佳雄さんがこの時に下宿していたアパートは、ちょうどこのマンガの舞台になっているそれのような雰囲気のところで、偶然なのか沖さんが住んでいたのも2階の部屋でした。僕は時折そこへ遊びに行っては沖さんの時間を奪っていたのですが、行くと机がわりのコタツの上には描きかけの原稿らしきものがあって、しかし何を執筆しているのか分からないよう紙を載せ隠してあるのでした。沖さんは僕の腹の底を見破って「キミはどうもその下(の原稿)を見たそうだなァ」と苦い顔をされるのです。でもやはり執筆中の作品を見せては下さいません。
 そこで僕はイタズラを試みることにしました。沖さんをモデルに『悪魔憑(つ)きのK氏』というギャグマンガの下書きみたいなものをでっちあげ、氏へ送ったのです。内容は以下の如き代物でした。
”頼んでおいた同人誌の原稿をもらいに、コーハイがセンパイであるK氏の下宿を訪ねる。しかし原稿は完成しておらず、K氏はなんとかごまかそうとするのだけれど結局失敗。コーハイが帰った後、どうにかしなくてはと、紙などを探すため、散らかった部屋の中をあちこちかき回す。と、変な「矢印」があって、引っ張ってみたらそれは悪魔の尻尾だった……。悪魔は裸の幼女(西洋絵画にある天使のイメージ)に変な尻尾が付いているという姿なのだけれど、もう驚いている時間は無い、K氏はこの悪魔にアシスタントをさせ、大急ぎで数百ページの原稿を完成させることに成功する。しかし……。”
 建前としては、「ギャグマンガの笑いにはある程度の法則があって、大げさ、馬鹿馬鹿しさ、意外性、主人公の間抜けぶりなどが読者を笑わせるのではないか?」といった仮説の実験という生意気なものでしたけれど、なんのことはない、中味は悪ふざけの下手な冗談でしかありません。悪魔のアイディアも『みだれモコ』のキャラクターの真似でした。
 作中のエピソードで主人公が、”押入れで小松菜の鉢植えを非常食にと育てていたものの、ゴミや洗濯物までそこへ放り込んでおいたせいで小松菜が狂って食人植物に突然変異してしまい、フスマを開けたとたんそれが飛び出してきて食い殺されかける”というのをやったので、僕は笑顔で沖さんに言いました「(僕のマンガは下手くそでも)部屋の科学考証はしっかりしてたでしょ?」。すると沖さんは怒って反射的におっしゃいました、「わしゃトリフィドなんぞ飼っとらんわい!」。このやりとりは確か「純喫茶カトレア」でなされたのでその席には吾妻先生もおられたのですが、先生は呆れ果てたご様子で苦笑しておられたようです。
 今となってはもう、吾妻先生も沖さんもたぶん覚えてはおられないでしょうけれど……。

ぐーたら哲学の巻

02_5(月刊少年チャンピオン 1978年9月号)

 夏。室内へ差し込む朝陽の暑さでやどりぎくんが起床すると、他の住人たちは共同の炊事場で朝食の用意をしていた。何とかおこぼれにあずかろうとするけれど、誰も食事を分けてはくれない。カタギでない人にまで戒められ、やどりぎくんが部屋でふてくされていたら奥さんが切ったスイカを持ってきてくれて……。

*(注:以下、物語と直接の関係はありません)
 この原稿が執筆されていた時、僕は吾妻先生の仕事場で仕上げ作業に参加させていただいたのですけれど、2ページ目の、人物ペン入れのみ完了した原稿を読んで沖さんが言いました、「先生、これは『ネムタくん』でやりましたよ……」「やった!?」(吾妻先生はびっくり仰天したご様子で苦笑されたのですが、その驚きぶりは後姿を見ていても全身がびくっと動いたのが分かる程でした)。「完全に忘れてたんですか……? あと全部同じだったりして……」と沖さんは心配したのですけれど、幸いそれはなかったようです。もしかすると『ネムタくん』第3話「イカレ三人組の悪行にイカレ(ツッパリ三人組夏をゆく)」(月刊少年マガジン1976年9月号)の冒頭部分を沖さんが想起されたのかも知れないですが、真相は分かりません。
 仕事場には先月号の連載ページを切り抜いてホチキスどめしたものがあり、それを参照して背景やら人物の服の模様やらを描いていたのですけれど、見ればやどりぎくんの隣室の人の衣装に「浪人」とびっしり書かれた部分があります。僕は意味も分からずそれを真似て「浪人浪人浪人……」と書いたのでした。後になって沖さんに、あの「浪人」というのは沖さんが考えた模様なのか問い訪ねたら、そうだということで、僕は「どうしてまた浪人なんですか?」とたずねました。「いやあ、なんとなく」と沖さんは笑っておっしゃられたのでしたが僕は「受験浪人」を連想して奇異また不吉に感じたのを覚えています(第1話では壁に学生服のように見えるものが吊るしてあったからでしょう)。とはいえ、この人には赤ン坊がいるものの学生なのか社会人なのか第1話までの段階だと不明瞭で、沖さんは時代劇に出てくる浪人(仕官の口が無く長屋で傘貼りの内職とかしているような)を連想したのでしょうか。登場人物の衣服の"柄(模様)"がこのようないきさつで決定する場合もあったようです。
 記憶が正しければ今回の台詞に数箇所、原稿段階の原文から少し変更されている部分があります。台詞は印刷にまわされるまでに何度か推敲されていたのか、『ネムタくん』でもそういう事があったようです。
 あっ、今回出てくる「ちちち」の学生は、どうも『ななこSOS』の四谷くんのプロトタイプらしく、この時が吾妻マンガ初登場みたいですね。

仕送りが欲しいの巻

30_3(月刊少年チャンピオン 1978年10月号)

 期せずして無銭飲食してしまったやどりぎくん。定食屋の娘、愛子は、「でも正直な方 逃げるチャンスはいくらでもあったのに いいんですよ100円くらい」と許してくれた。感涙にむせぶやどりぎくんは恩返ししようとするのだったが。

*意外とモテる主人公ではある。今回のエピソードからして彼には故郷に両親が居るらしいのだけれど、詳細は分からない。

あつい友情の巻

03_5(月刊少年チャンピオン 1978年11月号)

 月夜。寒くて眠れないやどりぎくんは、何とかしようとあれこれ悪知恵を働かすが失敗ばかり。あげくに同じ下宿の大学生さんからは「キミもひとにタカってばかりいないで学校行くなり働くなりしたらどうなんだろうねー」と言われ……。

*サービスなのか(?)管理人の奥さんの色っぽいネグリジェ姿がおがめる回(就寝時にブラをしているのは不自然に思えるが、少年誌だからなのか、それとも奥さんに何か理由や考えがあったのか、それは分からない)。大学生さん(名前はまだ不明)には全く表情が無いのだけれど、この話ではそれが逆に良く生かされているようだ。

甘い生活!?の巻

06_6(月刊少年チャンピオン 1978年12月号)

 奥さんは今日からパートで働くことになったらしい。それを聞いたやどりぎくんは「ミヨちゃんぼくがあずかりましょう」と申し出、「安心して仕事してきてください」と言う。かくて不仲な2人が一緒に過ごす事になったのだが。

*「なにやってらっしゃるの?」とか、言葉遣いにまで色気が漂う奥さんではある(冷子との対比でなおさらそれが目立つ)。ご主人(死別したらしいものの詳細不明)が1コマ登場している。

ゆく年くる年の巻

04_6(月刊少年チャンピオン 1979年1月号)

 12月31日、大晦日。「レコード大賞」、「紅白歌合戦」、「ゆく年くる年」、この三本立て見なくては年を越せないやどりぎくん。しかし下宿の人たちはみな帰省して留守で、TVを見せてはもらえない。とうとう涙がこぼれてきたところへやはりTVを持たぬ大学生さんと出あった。二人は街中を走り回って、TVを見ようと必死になるが。

*いかにも当時の日本人らしい大晦日。あの手この手で死に物狂いとなる二人の大騒ぎが読んでいて笑える。大学生さんはイクエ(榊原郁恵と思われる)の熱烈なファンであるらしい。

やさしさがほしいの巻

05_6(月刊少年チャンピオン 1979年2月号)

 学校。教室へ入るなり生徒に因縁をつけ「100円貸せ!」とせまるやどりぎくん。しかし結局、冷子にたかろうと決めた。ところが冷子は風邪で休みだという。見舞いに行くことにするが、訪ねてみると冷子はりっぱな家に住み手厚い看護を受けていた。それを見て羨ましくなったやどりぎくんは……。

*(注:以下、結末に言及しています)
 全16ページの前半で”何とかして病気になり、奥さんに優しく看護してもらおう”と決意するまでが描かれている。で、後半にヒネリがある。
 まず、病気になろうとしてありとあらゆる危険に自ら飛び込む。しかしうまくゆかず、最後の手段でどうにか病気らしい症状が出始め、喜び勇んで奥さんのところへ行く(ついに計画は成功したかに見える)。そうしたら何と奥さんは入浴中で「やどりぎさんもあたたまったら?」と恥じらいつつも誘ってくれる。全く予期しなかった(読者もそうだろう)幸運の到来に狂喜し「健康でよかった!!」(ここで目的が消失しむしろ逆転している)と大喜びするやどりぎくんだが、一緒に湯船に入ったとたん鼻血を出しぶっ倒れてしまう(だからもはや風呂に入っている事は不可能となってしまった)。おまけにそれまで全然大丈夫だったのに全てのダメージが今になって出始め、本当に病床に臥(ふ)す破目になる。悪だくみを実現すべく必死に努力したことで、千載一遇の幸福(=奥さんと風呂に入れる)を自らの手でぶち壊してしまった……という皮肉なオチになっている。
 各シーンごとの「アイディアによる」ギャグの他に、「構成(どんでん返し)による」ギャグがあるようだ。

プロはきびしい!!の巻

31_3(月刊少年チャンピオン 1979年3月号)

 朝。路上で凍死していた(ように見えた)男から、帽子とコートを剥(は)ぎ取って着用するやどりぎくん。しかしそのコートには拳銃が1丁入っていた! 残念ながらそれはオモチャだったのだが、これはいろいろ使えそうだと気づいて……。

*偶然拾った拳銃によって次々と事件が起こり、さまざまな人間模様が展開するといったオムニバスは、昭和30年代なら日本映画で大真面目に撮られていたのではないかと思える。最初のコマと最後のコマが同じという実験的な構成は、いろいろな騒動が起きたのに結局何一つ変りはしないという虚無的な印象を残すようだ。昔日の暗黒街もの映画を模しているのだろうか。

愛情べんとうはどんな味!?の巻

07_6(月刊少年チャンピオン 1979年4月号)

 やどりぎくんが屋根の上で日光浴していると冷子がたずねてきた。「下級生おどかしてこづかいかせごうぜ」と言う冷子と共に登校しようとすると、奥さんがおべんとうを渡してくれる。やどりぎくんは大感激して学校へ行くが、サボっている間にクラス替えがあって、担任はひどくきびしい教師にかわっていた……。

*冒頭に伏線が隠されており、構成が凝っている。やどりぎくんと冷子とは互いに異性としての意識は全く無い様子で、それと対比されて奥さんの反応はますます初々(ういうい)しい。

ネズミ取りがこわい!の巻

32_3(月刊少年チャンピオン 1979年5月号)

 奥さんのところに大家がやって来た。現在やどりぎくんの住んでいる一号室へ新しい人が入るという。追い出されたやどりぎくん。だのに平然としたもので「しょーがねえか部屋代しばらく払ってないからな」と言う。奥さんは「死にましょういっしょに!」と同情する。が、なんのなんの、おとなしく部屋を明け渡すつもりなど無いやどりぎくんだった……。

*前半、主人公が奇抜なアイディアで危機を克服し、あまつさえ極めて悪どい真似までしでかす。これだとやどりぎくんは読者から嫌われてしまいそうなのだが、後半ではひどく善良なところも見せてバランスを保ち、さらに天罰もくらってしまう(これで読者は彼を許してくれるだろう)。大変良く計算されている構成だと思う。

スポーツで汗を!!の巻

08_8(月刊少年チャンピオン 1979年6月号)

 奥さんとミヨちゃんは路上でバドミントンをしている。やどりぎくんも誘われてやってみるが「バドミントンはもうひとつ見せ場がないな」と強がる。「テニスなんかどうかしら 時々いくクラブがあるの」と奥さんに言われて……。

*前半は奥さんとのスポーツ、後半は他のキャラクターたちとのスポーツ、という構成になっている。登場人物ごとに違うエピソードなせいもあって、ぎっしり詰まった回という印象が残り、かつ「トリ」にはやはり奥さんが再登場して物語全体の調和をとって、しめてある。
 トビラでは全身タイツのウサギのコスプレ、中盤では超ミニスカートのテニスウェアと、奥さんのファンの為のサービス(?)場面も多い回。
 大学生さんの台詞にある「長距離走者の孤独」というのはアラン・シリトー(Allan A. Sillitoe)による小説の題名(The Loneliness of the Long Distance Runner)からか。

忘れ物はぼくの物!!の巻

09_6(月刊少年チャンピオン 1979年7月号)

 突然振りだした雨を、駅の屋根の下に逃れたやどりぎくん。「電車ん中ですこし雨やどりするか……」と決め、車内へ忍び込む。するとそこでは忘れ物をいろいろ拾える事に気づいて……。

*この当時まだ鉄道の定期券や切符は磁気記録のあるそれではなく、改札に駅員がいて肉眼で確認し手動でパンチを入れていた。台詞にある山手線は東京都のJRに実在し、これは路線が閉じた円状になっているため、1度乗車すると終電まででもずっと同じ所をグルグル回る事も可能になっている。ただしそこに走っている車両は劇中に登場しているもの(これは私鉄の車両がモデルか)とは型が違うと思われる。
 それにしても、主人公のやどりぎくんは雨でも何でも裸足で(!)平気で外出しているようで、これはすごい……。

海水浴の楽しみ方の巻

11_6(月刊少年チャンピオン 1979年8月号)

 真夏の海水浴場へやどりぎくんと奥さん親子が、そして他の住人たちも一緒にやってきた。できれば奥さんと2人きりで楽しみたいやどりぎくん。しかし猛烈に貧乏な住人たちは情けないことばかりしている。とうとう頭にきて叫ぶやどりぎくんだったが……。

*トビラ、こっそり隠したみたいに右最上部へちょっとだけ、奥さんの顔が見える。水着が「中学の時のしかなかった」と言っていたり、この人にはいろいろ謎が多いようだ。

アルバイトでかせごう!!の巻

10_6(月刊少年チャンピオン 1979年9月号)

 明日から夏休み。海へ山へとはしゃぐ生徒達がいる一方、アルバイト募集の掲示を見ている生徒達もいる。「なんかいい仕事ない?」と問われたやどりぎくんは、えらく高給な仕事の情報を持っていた。「なんだったらせわするけど」と言うので、生徒達はこれにとびついたのだが。

『愛情べんとうはどんな味!?の巻』でクラス替えになった筈のやどりぎくんだが、担任はここで再び以前の教師になっているようだ。あまりにも難物な生徒だからと戻されたのだろうか?
 工事現場にいる上半身裸の男はこの頃にTV放送されていた実写版『超人ハルク』("The Incredible Hulk" アメリカでは1978年放送らしい)の似顔絵ではないかと思われる。安自江(アンジェ)組というのはTVアニメ『女王陛下のプティアンジェ』からきているのだろう。「太陽がいっぱいだ……」という台詞は映画『太陽がいっぱい』("Plein soleil" 1960年)からきているらしい。

やどりぎの上品な生活の巻

33_3(月刊少年チャンピオン 1979年10月号)

 美人の女教師がやってきた。クラス全員は圧倒され、すなおに礼儀正しく授業を受ける。ところがただ1人やどりぎくんは彼女の尻を撫でて全員から袋叩きにされ、授業も受けずに帰ってゆく。「ああいう問題の多い子を指導することこそ教師の仕事」と、女教師は後を追うのだが。

*前半、たいそうウブな様子で登場する女教師が、後半で意外な素性を明らかにする。やどりぎくんはあっさり征服されてしまうかに見えるがそこは主人公、結局土壇場で逆転劇が待っている。

亭主関白のゆーがな生活の巻

12_5(月刊少年チャンピオン 1979年11月号)

 やどりぎくんが畑で野菜ドロボーをしていると、全裸の少女のような妖精(?)がいた。思わず抱きついたらそれが実は罠で、やどりぎくんは農夫に捕まってしまう。どうにか奥さんに助けてもらったものの、問題はその後だった。

*極端に純真無垢な奥さんはいろいろ無鉄砲もやらかすようで、それがためついに……。「愛されるよりも愛する方が幸せ」とか「与うるは受くるより幸い」とかの格言を地でゆくようなタイプだが、徹底的な天然ボケの性格もあいまって、奥さんは男の夢を結晶させたキャラクターになっていると言えようか。

それぞれたくましく!!の巻

13_5月刊少年チャンピオン 1979年12月号)

 朝。やどりぎくんが目ざめるといい天気……なのだが部屋には屋根が無い。一体どういうわけかと思ったら奥さんが現れ、アパートを取り壊すことになったと教えてくれる。かくて住人達は散り散りになるものの、やどりぎくんは奥さんが借りてある別のアパートへ行く。しかし娘のミヨちゃんはこれを怒り、「どうしてもというならあたし出てく」と言う。奥さんはどうしたら良いのか分からなくなってしまい……。

*シリーズはこれで最終回となり、主人公のやどりぎくんは避けて通れない障害を解決しなければならなくなる。果たしてどのようないきさつで結末に至るのか……最終回にふさわしい劇的な起伏がある。
 住人達のみならず奥さんまで、とうとう名前は明らかにされていない。いやそれどころか考えてみれば主人公たるやどりぎくんのフルネームさえもが謎のままではないか!? この不可思議さが吾妻マンガの特徴のひとつだろう。

No.1

14_4(マイアニメ 1981年4月号)

 美大をスベって浪人中の間久利人(まぐりっと)はアパートへ引っ越してきた。大家は彼に、一枚の絵が飾られている部屋をあてがう。絵は肖像画で、「前 暮(す)んでた売れない画家描いた これ描いてすがた消した」のだという。絵を壁から外すとアパート全体が傾く(!)のでそのままにしてあるのだったが、「ま いいやオレ好みの女の子だもんな」と彼はその部屋で暮らすことにする。大家が去って、一人で絵を眺めていたら、なんと絵の中の美少女は動き出し、口をきいた……!!

H_p_doll0*「二次元の世界へ出入り自由」という謎の美少女、ランジェ。『ハイパードール』単行本カバー(画像参照)を見ると、たぶん元ネタであろう『女王陛下のプティアンジェ』と服装がえらく似ているが、第1話ではこのコスチュームは着ていない。また『女王陛下……』のほうは青・白・赤の原色で目立つ服(児童向けTVアニメではしばしば用いられる配色のようだが、この場合は英国国旗のイメージもあるのだろうか)なのに対し、こちらのほうは灰色を基調としあえて色彩を避けたかに見える服となっている。物語の基本設定では両者の間に類似点もとくに無いようで、全くのオリジナルと言えそうだ。よって、パロディのようではあるもののそれは主人公の外見だけと考えてよいかと思う。
 "間久利人"というのは画家ルネ=マグリットのもじりか。
 ランジェを描いた「売れない画家」というのが一体何者だったのか気になるところではある。しかし大家はいささか普通の人物ではない(?)ようなので、訊(たず)ねても分からないかも知れないけれど。
 単行本の表紙には"HIGH-POWER DOLL"と書かれており、"HYPER(超越した)"ではないらしい。

(このあとに『ひでおのハイパーダイアリー』が収録されていますが既述であるため紹介を割愛します。)

No.2

15_5(マイアニメ 1981年5月号)

 間久利人は予備校で、留野亜流(るのある)と名乗る美少女から声をかけられた。「あなたと同じ日可素(ヒカソ)大学めざしてるんです」とのことで、「どんな絵描くのか見せてもらおうと思って…」と頼まれる。そこで間久利人は自分の静物画(?)を見せるのだったが、その中から突然ランジェが飛び出してきて……。

*舞台は「あじま予備校」となっているが、同名のところに『シャン・キャット』の番卜戸(ばんぼくと?)も通学していたようだ。
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 画像は、この作品が掲載された号の付録であった、ランジェのファイル(サイズはB5、左側が表、右側が裏。資料提供:大西秀明氏(吾妻ひでおFC「シッポがない」事務局長))。

No.3

16_4(マイアニメ 1981年6月号)

 大家に部屋代を払わされ、「今月どうやって食っていこう……」と途方に暮れる間久利人。ついに錯乱した彼は、ランジェの下着をひっぺがして売ろうとする。「そんなにお金が欲しかったらお金の中へ入っちゃうのは どーかしら あれも二次元だし……」とランジェに提案され、それは名案だと試してみるのだが。

*ランジェとランジェリー(lingerie=女性用下着)をひっかけたダジャレだろうか?

No.4

17_3(マイアニメ 1981年7月号)

 ある日ランジェが絵から抜け出してみると、部屋に間久利人の姿は無い。置手紙によればどうも旅行に出かけたようだ。おいてけぼりにされたランジェは泣いて怒るが「いいもん! あたしだって旅行ぐらいしちゃうもんね」と、書店へ向った……。

*ランジェがいかにも主役らしく生き生きとしている回。また、大家さんは黒尽くめの正装で出かけていたりして、その怪しい私生活を垣間見せている。

No.5

18_3(マイアニメ 1981年8月号)

 絵の中、自分の家で休んでいたランジェのもとへ来客がある。その客たちが騒々しく暑苦しいので絵から抜け出したランジェだが、間久利人の部屋は西日が入ってやはり暑い。ふと、うたた寝している彼が読みかけにしていたSF小説の雑誌に気づき、「宇宙空間なんて涼しそう」と思ったランジェはその世界へ行ってみることにしたが。

*当時の宇宙SFについて考察がちょっと述べられている。ちなみに間久利人の部屋にあった雑誌のタイトルは『SF奇想マガジン』。
 『ひでおのハイパーダイアリー』に名前の出てくる「早坂えむ」と「担当のKAZU(かず)」が1コマ出演している。

No.6

19_3(マイアニメ 1981年9月号)

 留野亜流ちゃんが間久利人の下宿へ訪ねて来た。2人とも宿題のデッサンが進んでいない様子。「どう気分を変えるためにテレビでも…今 怖いのやってんだよね~~」とすすめる間久利人。じつは留野亜流ちゃんが怖がって自分に抱きついてくれるようたくらんでいるのだったが。

No.7

21_3(マイアニメ 1981年10月号)

 紅葉した樹々をモデルに絵を描いている間久利人。しかしランジェはその作品を見て「才能が無い」と手厳しい評価。追い払われたランジェが公園を散策してみると、そこは日曜画家たちがけっこう多くいて……。

*単行本カバーにあるベストとロングスカートの、いかにも例のアニメのパロディから生まれたキャラクターといった服装は、この回から登場している。今回はオムニバスふうの構成になっており、ラストの2ページではちょっと切ない小さな物語が描かれている。
 (私見で恐縮ですけれど……。ギャグは無く、ヒロインが傍観者になってしまっている点がよしんばここにはあったとしても、こんな御伽話をさらりと読ませてくれる点をこそ僕は吾妻マンガにおいて何よりも好きで憧れました。しかし吾妻ファンでもそういうところに熱中する者は、もしかするときわめて少人数だったのかも知れません。)

No.8

22_3(マイアニメ 1981年11月号)

 クシャミしつつランジェが絵から抜け出してみると、間久利人は熱を出し寝込んでいた。冷やさねばということで、ランジェは間久利人を氷河期の絵の中へ連れて行く。しかしそこには原始人たちが生活しており……。

No.9

23_4(マイアニメ 1981年12月号)

 「とゆーわけでランジェは今回で終りです」「終わる理由としてはいまいち乗らないとかプレコミのミャアちゃんにキャラクターが似すぎているとか まー色々ありましてー」で、あれこれもめたあげく、間久利人は母からお見合いをすすめられる……。

*その母いわく「早めに結婚しないと今の若い人はすぐロリコンになったり二次元コンプレックスになったりSFマニアになったりするから…」。
 こうした問題提起(?)があるところを考えると、この『ハイパードール』は後の『幕の内デスマッチ!』の布石になったと言えるのだろうか?

好ききらいラミちゃん

24_3(マイアニメ 1982年1月号)

 ラミちゃんは食べ物の好き嫌いが激しい。嫌いな物は一切食べずに捨ててしまうので「好ききらいはいけないって言ってるでしょ!」と両親に叱られる。大好きなチョコレートを食べて眠ったら、枕元に変なのがやって来て、「ラミちゃんラミちゃん 起きてください」と言う、「ボクがだれだか分かりますか? ボクとんかつのアブラ身なんですよ」。驚くラミちゃんだったけど……。

*各回5ページ読みきりの連載はPRETTY GALS シリーズへと続き、これがそのNo.1になる。とりわけ子供に特有の問題であろう"好き嫌い"がネタになっているのは何ともリアル。80年代初頭あたりに"もったいないおばけ"というのがTVのCMに登場し、やはりこの問題をいさめていたように記憶するのだが、こちらは幼年向け雑誌のマンガではなかったから教訓話にはなっていない(むしろそれをひっくり返したような展開になっているようだ)。

寒がりマヤちゃん

25_3(マイアニメ 1982年2月号)

 幼稚園のバスが迎えに来た。でも「寒いから外出るのやだもん」とぐずるマヤちゃん。お母さんにせかされて外には出たものの、バスはすでに発車したあとだった。「あーん どうしようー」と泣き出すマヤちゃん。と、そこへ「暑くてたまんねーなー」と言いながらペンギンが歩いてくる。ペンギンは毛皮の予備をマヤちゃんに貸してくれて……。

*このあと、えらい大冒険になるのだが、とっても可愛らしいおとぎ話にまとまっている。おさない子供が主人公になると"不条理"も読んでいて微笑ましいものになるようだ。逆に考えると"不条理"なるいかめしい概念が成立しうるのは、それだけ僕ら大人の現実が不自由さにがんじがらめとなっている事の証明なのだろうか。

泣き虫ルイちゃん

26_2(マイアニメ 1982年3月号)

 すぐに泣き出してしまうルイちゃん。「すごいなーもう1時間ぐらい泣いてるよ」と、ほかの子供たちもびっくり。夕食になってもまだ泣き続けているので、「一種の才能だなァ」とお父さんも感心。しかし「今に涙がなくなっちゃうよ」とお父さんから言われて、布団に入ってもそれが心配なルイちゃん。そこへ……。

*とにかくよく泣く、というのも現実の幼児の特徴の1つだろう。オチはもしかすると、ある有名な女性歌手についての実話がヒントになっているのかも知れない!?

突っぱりジュンちゃん

27_3(マイアニメ 1982年4月号)

 小学校で入学式が行なわれている。しかし「なーにが入学式でえ! ダセーぜ!」とコケにしてこれに出席しなかったジュンちゃん。あげくに下校する生徒たちをフデバコでなぐっては金品をまきあげるという不良少女ぶり。が、路上に戦利品を並べていたら、誰かがその上をかるがると飛び越える。「てめーなにしやがんでー」と呼び止めたら、その子は人間ではなくイノシシだった……。

*ジュンちゃんという名前は人気のあったTVドラマ『3年B組金八先生』(1979)で三原順子が不良っぽい少女を演じていたところからきたものだろうか。"青少年非行は低年齢化が進むであろう"という未来予測になっている!?

ウソつきフミちゃん

28_3(マイアニメ 1982年5月号)

 「先生の後ろに…化け物がいます」フミちゃんには本当にそれが見えるのに、先生や級友たちには全く何も見えない。だからウソつきと思われ先生からお仕置きまでされてしまうのだった。とはいえ誰もが、フミちゃんの言うことをなぜだか疑いきれなくて……。

*普通の人には全く見えないものが見えてしまう超能力者(?)の主人公が登場する物語は、吾妻作品だと他に『釣師』(1995)という掌編がある。この2つは同じアイディアから出発していると言える(そしてもしかするとここまでは、僕らでも思いつく)かも知れない。とはいえ、読んでみれば分かるのだがこの2作品は全く別の物語になっている。僕ら読者の限界は、何か思いつくまでは出来ても、それを発展させて物語(しかも幾通りも複数の)にまとめあげるまでは出来ない、という点にあるのかもと思った。

欲ばりエリちゃん

29_3(マイアニメ 1982年6月号)

 「エリちゃん遊びましょー」と、しのぶちゃんが家に来た。しかし持ってきた人形を見るや「ちょうだいこれ!」と言い出すエリちゃん。お母さんはそのわがままを叱るけれど、まるっきり効果無し。エリちゃんの欲ばりはとどまるところを知らず……。

*正統的おとぎ話ふうに教訓を含むオチになっている(?)。人間の先天的な性格はどうやっても変わらず、やっかいな人物は子供の頃から既にやっかいなものだ、という見解であろうか。友達が「しのぶ」という名前なのは、登場している人形のデザインからしてもまず間違いなく高橋留美子の『うる星やつら』からきているものと思われる。

主役が50人!?

34_3(少年チャンピオン 1978年3月27日号)

 映画(注:『禁じられた遊び(Jeux interdits)』(1951)であるらしい)が学校で上映され、先生も生徒もみんな泣き出してしまう。しかし映画そっちのけで袋貼りの内職をしていたらしい我らが主人公のチョッキンは、これでまた金が儲かると大笑いし、全員から袋叩きにされる。先生は生徒たちに「みんなでひとつ8ミリ映画作ってみたらどうかしら?」と提案、その計画は着々と進むのだが。

『チョッキン』は単行本が4巻出ていたのだが、それでも全話を収録してはいないため、この単行本でも1作だけオマケ的に読むことができる。当時まだビデオカメラは家電製品として普及してはおらず、学生らが自主制作で映画を撮る場合には8ミリフィルムを使うのが一般的だったようだ。学生の人口比率は現在よりもはるかに高く、1クラスの生徒数が40人以上で、そうしたクラスが1学年ごとに6つほどあるという学校も珍しくなかったと思われる。

わたしの先生

35_2(別冊少年チャンピオン 1972年11月15日 秋季号)

 学校の朝礼で、新しく入った教師が生徒たちに紹介される。「やっ よろしくたのむぜ…」と挨拶したその男はまるでギャングか殺し屋のような服装と態度であったため、校長から大目玉を食らう。しかしそんな教師、無気力無能(むきりょくむのう)を見て、「ステキな先生…」と好意を持った女生徒、森正子(もりまさこ)がいた……。

*(警告:以下、結末に言及しています)
 森昌子が歌ったヒット曲『せんせい』(1972)が元ネタと思われる。蒸気機関車が描かれているが、この当時にはまだごく一部の路線で現役だったらしく、SL(steam locomotiveの略)が流行した時期もあったようだ。
 さて……。
 記憶が正しければ、雑誌掲載時とは変更されている台詞が数箇所ある。最も重要なのは最後のページで、初出では正子が土壇場でついた嘘にみんなが騙されて、無気力無能も何が何だか分からぬまま捕まってしまい「よくわからんけど 悲劇だー!」と叫んで幕になっていた。ところがこの単行本のバージョンでは、本当に妊娠させていたととれる終りかたになっている。もしかするとこちらがオリジナルで、初出時の台詞は編集部により修正を要求されたものだったのだろうか? これも記憶だけになるが、雑誌では最後のページの欄外に、編集部によるのであろう一文があって、「森昌子ちゃんと吾妻先生は関係ありません。カワイソーね!」とかと記されていたようだ。教師が女生徒を妊娠させるというのは少年誌のマンガには過激すぎるだろうということか、または森昌子の所属プロダクションからの抗議等を懸念していたのかも知れないが、真相は不明。

空手ウーマンりぶ

36_2(冒険王 1977年 お正月増刊号)

 「ひろみちゃんいっしょに帰ろう」と美少女に声をかける少年、ひでお。しかし不良たちにからまれるとまるで意気地が無いので少女はあきれ、去ってしまう。ひでおがなおもイジメられていると「よしなさいきみたち」と呼びかける者がいた。声の主であったお姉さんは「十円あげるからそのカメゆるしておあげなさい」と言うのだったが……。

*ベトナム戦争の頃にアメリカでは女性解放を目指す活動が盛んになり、これはウーマンリブ運動(Women's Liberation)と呼ばれた。しかしこのマンガにその史実は特に関係が無い。「空手」の「ウーマンリブ」ではなくて、「空手ウーマン」の名前が「りぶ」なのである(むろんそれにひっかけたネーミングであろうとは思われるのだが)。スポーツに強い女性の中にはややサディスティックなほど攻撃的な人も本当にいるかも知れないが(実際ある程度はそうした性格傾向が無いと試合には勝てないであろうか)、ここではむしろ、男たちの情けなさが喜劇になっている(登場する敵たちの中に女性はいない)。強くてかっこいいがちょっと物騒な美女というのは、ほぼこの1年後に連載開始となる別の吾妻マンガ『格闘ファミリー』で、ヒロインの"格闘乱子(かくとうらんこ)"へと血脈が続いているようだ。一方、武芸の達人でありながら本当におしとやかな吾妻ヒロインには"欅美美(けやきみみ)"がおり、こちらは1976年の秋に連載が始まっている。
 なお、劇中で道場破りが空手着の懐に入れている『男組』は、劇画の単行本ではないかと思われる(原作・雁屋哲、作画・池上遼一)。

(単行本『ハイパードール』は、ここで終わっている。)

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